論考
「疫学」の定義をめぐって
丸井 英二
1
Eiji MARUI
1
1東京大学疫学
pp.280-285
発行日 1980年4月15日
Published Date 1980/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206071
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■疫学の定義
ある学問領域の定義をするという試みは,きわめて困難である,たいていは,さまざまな議論の末に立ち消えになるのが落ち,ということになっている.確かに,定義をすることが,すでに存立している学問分野に制約を与え得るはずもなく,定義が先行してその定義の枠内だけで学問が生長する姿も想像し得ない.そのような学問があるとすれば,奇形としか言いようがない.
これから取り上げようとする「疫学」についても,同様のことが言えよう.疫学は教科書によれば,古くヒポクラテスに遡り,あるいは近代疫学は19世紀半ばのJ.Snowのコレラの研究にまで遡ることができる.わが国でもすでに森鷗外が「疫理学」として紹介していることからも知られるごとく,少なくとも移入以来1世紀近くになる学問分野である.とすれば,いかなる形にせよ,「疫学」は現実にそれに従事する人材を有し,それ相応のコンセンサスの上に成立していると考えて無理はない.しからば,そのコンセンサスはどのようなものであるか,定義のされ方という面から探ってみることができる.
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