特集 公衆保建モラル
生物社会の秩序と公衆モラル
宮脇 昭
1
Akira MIYAWAKI
1
1横浜国立大学植物生態学
pp.247-252
発行日 1980年4月15日
Published Date 1980/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206057
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■はじめに
現代は自由の時代である.特に日本は,世界の他の国々に比べて最も自由な国といえる.単に肉体的な自由ばかりでなく,社会的にも,精神的にも,我々は,かつて考えられなかったほどに自己を主張し,自己の権利が主張できる社会に生きている.
戦中,戦後の厳しさを体験しなかった若い世代の現代日本人の過半数は,民主主義を一面的に理解し,子供時代から家庭でも学校でも厳しいしつけを忘れた甘い両親や教師に育てられ,教育されてきた.そのために無制限なほどの自己中心の,いわゆる自由な生活の中で,しばしば人間社会も地球もすべて自分中心に回っているような錯覚にとらわれている.日常生活において自分中心の思想が,自分に邪魔な生物は新しい薬剤で皆殺しにしている.現在の自分の,また自分の属している家族,集団,派閥のあらゆる生理的,感覚的,さらには経済的な欲望を満足させるためには,神を忘れ,自然を無視して,自然開発や地域開発に走り,都市や工場地の造成に山を削り,谷や海を画一的に埋め立てた人工環境を造り出すのが,進歩のすべてと誤解されやすかった.
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