綜説
英国における疾病とSocial Class Differences
鏡森 定信
1
1金沢大学公衆衛生学
pp.429-436
発行日 1979年6月15日
Published Date 1979/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401205865
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〔Ⅰ〕緒言
急性感染症の予防および治療に対して,われわれは著しい成果をあげることができた.これらの経験は疫学の発展を呼び,疾病の流行に対しては宿主(host),環境(environment),病因(agent)の3要因による総合的対処の必要なことが明確にされてきた.各種の有効な治療は急性疾患のかなりの部分を克服はしたものの,その後われわれは慢性疾患という新しい課題に直面することとなった.出生率の相対的な減少は平均余命の伸長ともあいまって,いわゆる老齢化社会の到来を急速に引き起こし,その結果として加齢現象等と深い関連を有する悪性新生物や循環器障害等,徐々に発症し,経過のきわめて長い疾病や慢性感染症への対処が要求されるようになった.
慢性疾患の発症には広く生活環境が関連しており,またこれらの疾患からの社会復帰に際しても,労働条件をはじめとする生活環境が,その再発あるいは悪化などときわめて重要な関連を有することは論をまたない.わが国においても,各種の慢性疾患とその社会経済的要因との関連についての報告や研究を多数見ることができるが,その多くはいまだ特定の保健・医療従事者あるいは一部の研究者の努力によるものであり,少なくとも広く地域の健康状態に即した保健・医療施策を進めるに際し,活用される段階には至っていない.
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