特集 生涯教育
関係機関の現状と展望
生涯教育と大学
高桑 栄松
1
1北大衛生学
pp.698-699
発行日 1977年10月15日
Published Date 1977/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401205490
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大学と衛生行政今昔■
生涯教育を語るにあたって,昔の大学と衛生行政とのつながり,生涯教育における大学の果たした役割を思い出すことは,必ずしも懐古趣味とばかりはいいきれないと思う.今日に至る歴史的な変様をもまた,移り行く社会の流れの必然としてとらえ,将来への展望を開く一里塚として重要であると思われる.
筆者の恩師・故井上善十郎先生は細菌学者であった.パリのパスツール研究所に留学し,帰国して衛生学の教授に就任した先生は,細菌学とは異質の環境衛生学に取り組んで,新天地の開拓を志したのである.当時の基礎教室はどこも,いわば臨床家にとっては学位論文を得るための研究の場であった.ところが衛生学教室入局者の多くの人たちは,いつの間にか臨床に帰るのを忘れて衛生学に根を下ろし,衛生行政の道に踏みこんで行った.手近な場所は道庁であり,主に内務省所管で主管は警察であった.例えば伝染病が発生すると,消毒の指揮は警察がとり,医師は技師として現場を担当したのである.学校衛生も産業衛生も立場は同様であったが,先輩たちは意欲的に新しい仕事に取り組んでいった.当時,衛生は行政の中では付録であったが,医師にはパイオニアとしての自負があった.いや,その希望を掲げて衛生行政に邁進していたというべきであろう.技師の先生たちは何か新しい事件にぶつかると,すぐ大学にかけつける.
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