特集 第14回社会医学研究会(主題・地方自治体と保健衛生)
主題
自治体と医療
朝倉 新太郎
1
1大阪大学医学部公衆衛生学教室
pp.810-817
発行日 1973年12月15日
Published Date 1973/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204767
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
老人医療費の無料化,乳幼児医療費の無料化など,地方自治体での医療保障が国の水準を越えて先行している.このような傾向に対して,"あれは革新首長の人気取り政策だ" とか,"住民ベッタリの素人行政" といって非難する声も一部には強い.しかし,住民により身近かな地域共同体が,その共同体を構成する個々の住民の「いのちと暮し」を守ることに熱心になることは極めて自然の理であって,これにケチをつける正当な理由はない.むしろ,本当に問われねばならないことは,これまでの国の政治が,住民とそれによって構成される自治体に対して,どれほど医療を保障してきたか否か,ということではあるまいか.
時代の変化とともに,医療は公共サービスとしての性格をだんだん強くもつようになってきている.しかし,そのことはなにも,すぐ国が前面にでて医療をコントロールすることを意味するわけではない.むしろ,どこの国においても,いわゆる医療の社会化の過程には,「自治体医療の確立」とでも呼ぶべき段階を経るのが常である.そして,この時代における医療の成熟の度合が,そのあとにつづく医療の性格を決定づけるといっても過言ではないかも知れぬ.碩学のH. E. Sigeristはこのような観点から,ソビエトの「社会主義医療」を帝政末期のZemstor Reform(1864)に結びつけて論じている.英国においても,国営医療に至る過程には,確固とした地方保健医官制度と自治体病院の展開があった.
Copyright © 1973, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.