人とことば
公害問題と労働衛生
山口 正義
1
1労働省労働衛生研究所
pp.485
発行日 1969年9月15日
Published Date 1969/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203937
- 有料閲覧
- 文献概要
公害--これは最近の公衆衛生の分野で最も頻繁に取り上げられる問題の一つである.重化学工業によって代表される近代産業の著しい発展と,人口集中による都市の巨大化など社会生活の変革とが絡み合って,大気汚染や水質汚濁,それに起因する人間の健康障害,農作物や水産物に対する影響など,いわゆる公害は,今や科学的にも,行政的にも,あるいはまた政治的にも,根本的な解決を迫られている最も大きな社会問題の一つである.
私が始めて公害という言葉を耳にしたのは,今から約30年前,昭和13年,厚生省が誕生して間もなく,当時の労働局の監督課に入って,労働衛生の仕事に携わるようになった時のことである.足尾銅山を始めとして,各地の鉱山の鉱毒問題は知られていたが,私が厚生省に入った頃,ようやく満州事変を契機として急激に発達していたわが国の化学工業の影響を受けて,各地の化学工場の活動が活発になり,そこから排出される廃液によって農作物や水産物に被害が起こり,その因果関係の究明や対策樹立のために,化学専攻の技師が忙しい思いをしていたことを思い出す.元来,監督課の化学専攻の技師の任務は,工場における化学災害の防止や有害作業環境の改善の監督指導が主たる仕事であったが,当時急激に増加しつつあったこの公害問題の処理にかなりの時間を費やさざるを得なかった.
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.