主張
公害問題—その新しい考え方
庄司 光
1
1京大・工学部
pp.62-63
発行日 1969年2月15日
Published Date 1969/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203815
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ようやく芽生えだした公害行政
厚生省の公害行政に変化がみられる.すなわち,昭和43年5月8日に厚生省は富山県におけるイタイイタイ病に関する見解を明らかにし,イタイイタイ病の本態はカドミウムの慢性中毒であり,その原因物質としてのカドミウムは,神通川上流の三井金属鉱業株式会社神岡鉱業所の事業活動に伴って排出されたものであるとした.
新潟県水銀中毒については,昭和43年9月26日に科学技術庁が政府の技術的見解を発表している.このとりまとめの前段階で厚生省の見解が出されているが,これは厚生大臣の諮問機関である食品衛生調査会の答申によるものである.この答申は昭和電工鹿瀬工場のメチル水銀を含む排水が,本水銀中毒発生の基盤をなしたというあいまいな表現であり,直接研究にあたった疫学班の次の結論とくらべると対照的である.疫学班の報告では,本事件は阿賀野川のメチル水銀化合物汚染を受けたり川魚を多食して発生したメチル水銀中毒事例で,第2の水俣病というべきであり,その汚染源は昭和電工鹿瀬工場の排水であると.科学技術庁のまとめた政府の技術的見解では,発生原因者についての表現はたいへんあいまいになっている.このように疫学班の結論がしだいにあいまいなものになったのは,横浜国立大学北川徹三教授が農薬説を出し,通産省がこれを支持しているからである.これについては「科学朝日」(昭和43年12月)のp.96-100に紹介したから参照されたい.
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