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医師の地域的な偏在
最近,わが国では医師不足が各方面で訴えられているけれども,昭和41年末届出の速報によると,11万0759入であり,人口10万対111.8である。これは,昭和31年末の9万6139人,人口10万対106.5に比べて1万4620人も増加しており,人口増加率よりも上まわった増加を示している。欧米先進国に比しても,著しく低い人口対率とも思われない。医療の近代化や生活水準の向上に加えて,人口の老齢化などによる医療需要の増大があるにしても,医師総数としてはそれほど医師不足とは考えられない。構成のうえで,従業地の地域的な偏在,あるいは従業の業種的な偏りが顕著になりつつあることが,医師不足が訴えられる最大の原因と思われる。
府県別の届出数をみると,1位の京都府は人口10万対172.9で,46位の埼玉県の71.9の2.4倍もの値を示しており,府県間の差異があまりにも大きい。ここ10年間の動きでみると,大都市がある府県およびその周辺の府県や,医科大学のない県が人口対率の減少もしくは低い増加率を示している。大都市およびその周辺の府県では,医師の増加が,あまりにも急激な都市人口増加に歩調が合わなかった結果であり,将来,徐々に改善されるものと期待され,また人口対率は減少したといっても大都市では全国平均をかなり上回っており,問題はそれほど深刻ではない。やはり問題は,医科大学のない県にあると言えよう。中には佐賀県のように,10年間で医師実数は30人も減少したのに,人口10万対率は97.4から106.7と逆に増加した県もあるが,この人口減少傾向は,後述の無医地区問題ともからんでいっそう深刻な問題を惹起するものと思われる。医師不足の切実さから,医師養成数を増加すべきだという意見がかなりあるけれども,既設の大学の定数増や,大都市への新設では,現状の打開には役だたないことは明らかであり,医大のない県への新設,しかもこれらの県は財政的にも豊かでない県ばかりであり,国立もしくは医療保障の見地からも地区の特殊事情を十分考慮した優遇措置を講じたものとすべきである。
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