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問題の背景
第2次世界大戦の後,いわゆる福祉国家welfare stateを志向する新しい時代の流れの中で,世界の各国が当面した国民保健の共通の基本的な課題は,いわゆるHealth Manpowerの開発確保である。すなわち先進諸国においては,人口の都市化・老齢化・死因・傷病像の質的変化と医療技術のめざましい進歩,教育水準の向上による保健に対する国民の関心の増大,病院医療の高度化などによって,医療・保健サービスに対する需要が急激に増大し,複雑化した半面,医療・保健などに従事する各種の技術者は,量的にも質的にもこれに対応することが至難となってきた。この問題はそれぞれの国の社会体制によって,その困難さに質的な差はあるが,医療サービスに対する需要の増大と医療技術の進歩の決定的なすう勢が共通であるため,社会主義の諸国にとってもきびしい問題であることには変わりはなかった。また新興独立諸国においては,政治的独立をかちとったとはいえ,生活水準の低位,疾病と不健康の蔓延などの国民保健の厳しい悪条件に加えて,医師をはじめ医療・保健の専門的技術者の絶対数が極度に不足していることも周知のとおりである。
世界人類の健康の理想実現を掲げて戦後設立されたWHOが,その20周年に当たる1967年の世界保健デーの主題を"partners in Health"と定め,医療・保健にとりくむ人々の活動の重要性と,その利用に対するすべての人々の理解を呼びかけ,またその働き手の厳しい不足の現実を全世界に訴えたことも,この間の厳しい事情を反映したものであった。この問題について筆者はすでに本誌第29巻第8号(昭40. 8)に"公衆衛生技術者養成の国際的動向"と題して,国際的にみた公衆衛生技術者の諸類型・教育訓練・身分資格・需給などの諸問題を,西・東・南の諸国に大別して紹介した。しかし,いわゆるHealth Manpowerの問題はその後の激動する世界の動きの中で,いっそう深刻化しつつあるので,本稿では前記の報告との重複は極力避けて,主要な各国における最近の動向などについて簡単に紹介することとしたい。
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