綜説
科学体系のなかの公衆衛生学の位置と役割(その2)
水野 宏
1
1名古屋大学医学部公衆衛生学教室
pp.133-139
発行日 1963年3月15日
Published Date 1963/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202638
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Ⅴ.人間を対象とする科学と医学
臨床医学は人間を対象とする科学である。統一的存在としての人間を深く理解することなしには,すぐれた臨床医となることはできないであろう。細胞の構造とその機能を知ることは,人間を深く理解するために欠くべからざる基礎的知識の獲得のために必要である。生理学も生化学も病理学も人間を理解するに必要な基礎的知識を提供するという意味で基礎医学とよばれるのであろう。細菌学・薬理学・衛生学・医動物学などは人間にはたらきかける諸要因とその人間に及ぼす影響を追求することによって人間理解を助けるという意味において,基礎医学とよばれるにふさわしい。臨床の学者がこれらの基礎医学的分野の研究に深く打込むことは人間を究めるためにも欠くべからざることであるが,細菌の構造とその機能の研究だけに没頭している者を臨床医学者とよぶことのできないのはいうまでもない。臨床医学者は,細胞とか組織とか器官とかいう次元だけではなく,また人間にはたらきかける諸要因だけでなく,統一的存在としての人間という次元において,まず深い科学的知識に基づく理解がなくてはならない。
しかし人間を対象とする科学は医学のみに止まるものではない。心理学も人類学も人間を対象とした科学であるし,教育学もそうであるといってよかろう。また社会学も社会的存在としての人間像を追求するという意味でやはり人間を対象とした科学である。
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