特集 低所得階層と結核
結核による貧困化過程の考察
塩沢 満
1
1栃木県立足利保健所
pp.213-219
発行日 1961年4月15日
Published Date 1961/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202395
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I.はじめに
昭和35年度の厚生白書1)によると,国民総生産は13兆円にのぼるといわれ,経済成長率は昭和22年度〜27年度で年率11.5%,昭和28年度〜34年度で8.3%といわれている。国民経済が豊かになり,国民生活が質的に向上すれば,社会病である結核にとつて極めて良い効果をもたらすことは言うまでもないが,その一つの現れとして,我が国の結核の様相が,近年PandemieからEndemieの型に変りつつつある。これは医学技術の進歩,公衆衛生の発展も勿論であるが,この辺の事情もあずかつて大いに影響があるものと考えられる。ただ,問題は,我が国経済の特徴ともいうべき,二重構造が結核の種々相の上に,どんな形で現れているかということである。
昭和33年度の結核実態調査2)の結果によれば,生活扶助を受けていない者の要医療率は3.3%であるのに反し,受けている者のそれは6.5%と約2倍の高率を示している。また昭和32年度の結核総医療費は633億円の巨額にのぼるが,そのうち生活保護法による負担が実に140億円,即ち全体の22.1%3)を占めているという事実等からみれば,低所得階層における結核の問題が今なお,極めて深刻であることが判る。
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