綜説
医療社会事業—公衆衛生との関連において
浅賀 ふさ
1
1日本福祉大学
pp.298-301
発行日 1959年5月15日
Published Date 1959/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202136
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健康相談に来る患者
待合室に帰つて,椅子に力なく腰かけたA氏の顔色はひどく蒼白であつた。彼は今医師から肺結核の診断と仕事を休んで絶対安静をとるようにと云い渡されたのである。A氏には妊娠中の妻と3人の子供が家庭で待つている。明日からの生活の恐怖と不安が彼をおそつたが,それにも増して彼を困惑させたのは妻にどのように打ちあけたものかという事であつた。これは50余年前ボストンの或診療所でDr. Cabotの診察した1人の患者の姿であつたが,現在日本のどこにも数多く見出される風景であるばかりか,我国には複雑でもつと困難な事例が非常に多い。それは我国特有の文化と貧しさから来る人間関係の中で培われる諸々の問題が執拗にからんで解決を困難なものにしていると同時に,社会資源の貧困―実際に欠除しているものと対策は一応建てられていながら経済的裏付の少いため不渡手形に終るもの―が人々のニードに答え得ないからである。試みに最近の医療社会事業事例記録を開いて見れば次のような事例が見出される。
B患者は肺結核の子持ちの妻,夫は社会的信頼性も経済的安定性もない。すでに死亡した母以外は皆義理関係の実家しか頼る処がない。Bが現代医学の恩恵をうけて,立ちなおるためには経済的社会調整が必要である。子供の問題も援助しなければならない。これは東京都深川保健所のケースで保健婦が扱いかねて依頼したものである(1)。
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