特集 公衆衞生に必要な新藥の知識
癌の治療藥
石山 俊次
1
1関東遞信病院外科
pp.5-15
発行日 1954年6月15日
Published Date 1954/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201390
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ホルモン
癌につける薬はない。これが常識であり,定説であつた。H. M. Dye(1949)が1948年までに文献にあらわれた5,000種以上の抗腫瘍剤をしらべたところでは,ほとんど大部分がnegative worksであつて,なお希望をもつて注目しうるものは僅々数種に過ぎない。A. Gellhornの言をかりていえば,癌の治療薬をさがす仕事は,原野に野生の動物をしとめるよりももつとたよりないものであつて,悪性腫瘍細胞に関する空想的な知識をもとにして,かりそめに企てられる癌の薬物治療は,つねに無意味であるのみでなく,ときには有害でさえある。
いつぽう癌の早期診断と手術及び放射線による治療手段は,過去50年間に著しい進歩をとげたが,しかしそれにも自ら限界があって,5年以上のいわゆる永続治癒率でみても,胃癌の8%,前立腺癌の20%,乳癌の40%,などで,残りの多くのばあいは,最善の手術,最善の放射腺療法にもかかわらず,空しく失われていく事実をどうすることもできない。最近の化学療法にもとめられるものは,このようなきびしい現実から生れたもので,したがつてたとえ単独で癌を根治しないまでも,症状を緩解し,再発や転移を制禦し,手術の限界をこえて進展した癌の進行を阻止してより長く生命を保証するならば,それだけでも有意義なものと考えなければならない。
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