映画の時間
―マルセイユを舞台にした,ある夫婦の心あたたまる物語.―キリマンジャロの雪
桜山 豊夫
pp.527
発行日 2012年7月15日
Published Date 2012/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102480
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「キリマンジャロの雪」というと,1954年に映画にもなったヘミングウェイの小説を連想しますが,本作品の題名は,ヘミングウェイの作品ではなく,1966年にフランスでヒットした同名の歌からとられているということです.もっとも,本作品のなかでも歌われるその曲の歌詞では,キリマンジャロを憧れの観光地として描いており,主人公の夫婦もそこへの旅行を計画するのですが,キリマンジャロを歌の文句に現れるほど有名にしたのは,ヘミングウェイの小説だと言われています.あながち無関係とも言えないかもしれません.
舞台はフランスのマルセイユ.工場労働者の整理解雇をくじ引きで決めるシーンから映画が始まります.主人公のミシェル(ジャン=ピエール・ダルッサン)はその会社の労働組合の委員長のようで,労働者たちが見守る中,退職者を決めるくじを引き,名前を読み上げていきます.何番目かに自分の名前の書いたくじを引き当てます.組合の幹部でもある義弟が,「はずしておかなかったのか?」と尋ねますが,「公平に選ぶんだ」と言って,彼は工場を去って行きます.短いシーンのなかで,主人公の誠実な人柄を表現する演出です.
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