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はじめに
わが国の国勢調査は周知のように人口センサスであると同時に,社会実態調査でもある1).居住地以外にも就業状況(職業や産業の分類)など社会的属性について調査しているので,地域別のいわば構造を与えることになる.このような構造が将来の住民の健康にどのような影響を及ぼしうるのかを予測することができれば,公衆衛生のみならず,社会の構造に関与する政策を国民の健康増進,健康危機管理の立場から検討することも視野に入る.ここで,公衆衛生活動で第一義的に求められる統計は,本来は要因と健康の変化に関する「リスク」であることに注意しなければならない.このようなリスクを例えば職業や産業部門別に求め比較するのに必要なことは,国民を代表するコホートを確立し,個人情報を用いて,個人ごとに死亡などの発生の有無を追跡することである.国勢調査によるコホートを,個人情報の保護を確保しながら,人口動態調査において個人レベルで追跡し,国勢調査と人口動態統計を個人レベルでリンケージできれば,社会的要因別に死亡や出生に関するリスクの計算が可能になる.
様々な政府統計や行政調査資料等を個人レベルでリンケージすることにより,国民の健康リスクの予測やリスク回避に向けた対策の立案等に活用できるのではないかと期待されている.健康リスクに関連する統計制度は,大きな変動期にあるわが国においてこそ,将来の羅針盤としての機能をこれまで以上に強めなければならない.そのような機能が具体的にはどのような形態をとるべきか,それは行政や関連機関に蓄えられている個人情報を,濫みだりな使用から保護しつつ,縦断的にリンケージすることによって,どこにどのような危険が潜んでいるのか疫学的に明らかにする「リスク統計」を創設することに依拠する.換言すれば,リスク統計はどこにどのようなチャンスが眠っているのかを明らかにする統計でもある.
本稿では,リスク統計の構想とその果たすべき機能について,諸外国における事例も交えながら,わが国における課題と今後の展望について概説する.
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