特集 超高齢社会に備える
成年後見制度の重要性と定着・普及への課題
宮内 康二
1
1東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻老年社会科学分野
pp.301-304
発行日 2011年4月15日
Published Date 2011/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102080
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はじめに
判断能力が不十分になると,年金口座からお金を引き出すことが難しくなる.納税や登記の手続きも困難となる.自分に適した介護サービスを選び,理解して契約を結ぶことも難しい.回数は少ないが重要な,不動産の管理・処分,保険の請求・受け取り,相続事務などに関する手続きをとることが困難になる.経済的虐待や詐欺被害に遭ってしまう人もいる.判断能力が不十分ゆえ,被害に遭っていることを誰かに伝えることや,これらに抵抗し訴えを起こすことも困難か不可能となる.
このような人の意思を補充し,各種手続きを代行する人を選任するのが成年後見制度である.明治時代から続いた禁治産制度を改め,財産管理に限らず,超高齢社会に備え医療・介護等の手配なども職務範囲とする制度として,2000年4月にスタートした.制度の基底理念は,自己決定権の尊重・残存能力の活用・ノーマライゼーションである.この理念のもと,家庭裁判所(以下,家裁)に選任された後見人等は,表の内容に対し,同じく家裁から付与された代理権・同意権・取り消し権という3つの武器を適宜適切に行使し,被後見人を護る.
成年後見の潜在利用者は平成22(2010)年度現在,認知症高齢者約205万人・知的障がい者約55万人・精神障がい者約323万人,あわせて583万人である.これに対し,過去10年間の実利用者総数は20万件と少ない.しかし,10年前の9千件に対し,平成21(2009)年は2万7千件と3倍になっており,今後さらなる利用が見込まれる.
本稿では,成年後見の実務の流れを紹介しつつ,制度定着に向けた課題と対策を述べる.
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