連載 トラウマからの回復─患者の声が聞こえますか?・9
さみしさと無力からの脱出
八木 純子
1
1NPO法人JUST(日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン)
pp.1042-1045
発行日 2010年12月15日
Published Date 2010/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101981
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子ども時代
私はお金のない家庭に育ちました.父は働かず家からお金を持ち出し,母は夜パートに行っていました.お米がなかったので,私と弟は同じ敷地内に住む祖母の家で,毎日夕飯を食べさせてもらっていました.祖母には「自分の箸と茶碗がないなんて,本当にお前の家はおかしい」と言われていました.家にはお風呂もテレビもありませんでしたので祖母にテレビも見せてもらえるのですが,消したとたんに「ああ静かになった」と言われていました.祖母が嫌みで意地悪な人だということには,長いあいだ気がつきませんでした.祖父の敷地内には3軒の家が建っていて,そのうちの1つには,働かずにぶらぶらしている叔父たちが住んでいました.叔父たちは母を馬鹿にしていました.「馬鹿な男に引っ掛かって,子どもを2人も産んで,自分が馬鹿なことをするのは構わないけど,俺たちの手を煩わせないでくれよな」という態度でした.
お金のないことも,父が働かないことも,私にはどうにもできません.母はお金と父のことで頭がいっぱいで,私には無関心でした.私はさみしかったです.無力感とさみしさに打ちのめされないために,「すべて私が悪いのだ」と思うことにしました.私さえ良くなれば,周囲の環境も良くなるかもしれないのです.状況を変えたい.さみしくてしょうがない.「私が悪い子だからお母さんは忙しいし,お父さんは働かなかった挙句にどっかに行ってしまったんだ」「良い子になるから私のことを見て頂戴,良い子になるからお父さん,私の所に戻って来て」
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