巻頭カラー連載 A-LSD!病床からの誘惑・1【新連載】
無力の魅力
甲谷 匡賛
,
西川 勝
1
1大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
pp.405
発行日 2007年5月1日
Published Date 2007/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661100996
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- 文献概要
つるんとした表情が、初対面のぼくに向けて爆発した。それが「光明」だと知ったのはずいぶん後だ。ALSという病気で表情筋のコントロールがうまくいかない甲谷さんは、挨拶程度の微笑みが、たまらず大口を開けたバカ笑いになり、それがくずれて号泣する表情になってしまう。吹き出る大声は、ことばの体裁を取らず、叫びか嗚咽に聞こえる。ささやかな同情心など恐れをなして退散するしかない。
彼の爆発的表情を、「感情失禁」と名付ける医療者がいた。 何かが見えていないのだ。外側からは、ただひたすら痛ましい姿にすぎない彼の病気。その奥底に光るとてつもないエネルギーに触れることは、一つの僥倖である。ひょんなことから縁が結ばれ、昨年末に横浜での絵画展に協力したぼくたちは、彼を通して「力」の意味を考えている。無力の魅力に貫かれてしまった人たちがいる。多様な支援が彼のイメージ世界を出現させた。放射する光のただ中で目を閉じてはいけない。
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