視点
アスベスト災害と予防原則―震災対策と関連して
宮本 憲一
1,2,3
1立命館大学
2大阪市立大学
3滋賀大学
pp.358-359
発行日 2010年5月15日
Published Date 2010/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101801
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わが国は第二次大戦後,水俣病や四日市大気汚染公害など深刻な産業災害を経験した.公害・環境破壊の被害は他の経済的被害と異なり,絶対的不可逆的損失をもたらす.健康被害・死亡,埋め立てなどの大規模な自然破壊や歴史的文化財・景観などの損傷は,後から補償をしても回復しない.多くの公害事件は,事前調査をして予防をしておれば,経済的にも少ない費用で防げたことがわかっている.いま世界政治の焦点になっている地球温暖化防止は,この環境破壊の教訓から予防原則によって対策が始まっている.
予防原則とは一定の損害が発生するおそれがある場合には,科学的不確定性があっても,損害を未然に防止する措置を取るべきであるというのである.これは日本の戦後の公害事件から生まれた教訓と言ってもよい.にもかかわらず,日本は欧米に比べて30年遅れて1997年環境影響評価法ができて,99年から適用された.それでも事業が決まってからアセスメントをするので,環境破壊がわかっても事業を中止したり,大きな変更をすることはできなかった.そこで今年からようやく戦略アセスメントを採用して,事業の計画段階からアセスメントを行うことになっているが,肝心の発電所などは適用外となっている.
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