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はじめに
与えられたテーマは「健康食品ブームの社会的背景」である.そもそも健康食品は,今,ブームの中にあるのだろうか.私は少し冷めた目で見ている.
「健康食品」とは,曖昧で得体の知れない食品群である.うさん臭いものを含めて,多くの種類の「健康食品」が跋扈する中で,果たして,「科学的根拠」をキーワードに個々の健康食品を精査していくと,どれほどのものが残るだろうか.そうした観点から,『毎日新聞』日曜版に「健康食品ノート」と題するコラムを書き始めたのが2000年10月だった.1年間の連載をもとに『健康食品ノート』(岩波新書)を出版したのは2002年2月であった1).
連載当時は,「がんに効く」という触れ込みのアガリクス食品が盛んに宣伝され,まさに,異様とも言える「健康食品ブーム」の時代だった.その後も過熱気味の状況が続いたが,ここ数年,幾分かは沈静化したように思える.状況の変化には,アガリクス食品の「バイブル本」の摘発事件や,フジテレビ系列の人気健康情報番組「あるある大事典Ⅱ」の納豆ダイエット捏造事件などが深く影響している.しかし,2008年にはテレビ番組での紹介で「朝バナナダイエット」が関心を呼び,バナナが極端に品薄になる現象が起きている.
人々の「食品信仰」には根深いものがある.「ブーム」は蜂の羽音を語源としており,「ある事柄が急に盛んになったりすること」(新明解国語辞典)といった意味が含まれる.一時的に沈静化しても再び過熱する可能性がある.ブームという形ではなく,市民が健康食品を冷静に眺め,適切に向き合えるようになることが大切である.
本稿では,人類の歴史を振り返る「長期的視点」,戦後から今日に至る「中期的視点」,1990年前後からの「今日的視点」という3つの視点から,健康食品をめぐる動きを捉え直し,健康食品が人々の心を魅了する仕組みについて社会的背景を分析する.その上で,健康食品と賢く付き合うための処方箋の一端を提示できれば幸いである.
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