特集 エイズ対策は成功したか
成功したタイのエイズ予防対策
安田 直史
1
,
宮本 英樹
1
1国立国際医療センター国際医療協力局
pp.914-919
発行日 2003年12月1日
Published Date 2003/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100983
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現在世界では4,200万人を越えるHIV感染者がいると推定されており,感染拡大に歯止めがかかるというよりも,むしろアジアや旧ソ連の国々を中心とした新たな国での感染拡大が深刻化しつつある1).そんな中,タイはアジアで初めて大規模なHIV感染流行を経験したが,逆に比較的早期に感染拡大を抑えることに成功した例としてより有名になった.タイのエイズ対策を振り返ってみることによって,わが国が学ぶべき点を明らかにしたい.
水面下の感染拡大から感染爆発へ
タイで初めて報告されたAIDS患者は1984年,外国帰りの同性愛男性(men who have sex with men,以下MSM)であった.その後感染流行を懸念した保健省は,高リスクグループを中心とした散発的かつ小規模なサーベイを数年間行ったが,MSMから少数の報告がみられた以外,静脈麻薬常用者(injecting drug user,以下IDU)や売春婦(commercial sex worker,以下CSW)の中でも陽性率はきわめて低く推移した.この間,一般人のみならず,保健政策担当者も「HIV/AIDSは限られた集団の病気で,一般には広がらないだろう」という誤った認識を持つに至った.サーベイランスとしてはAIDS発症者数の報告のみであったが,感染からAIDS発症までには5年以上の時間差があるため,5年以上前の感染状況を反映しているに過ぎないわけである.当然のことながら,初期の感染拡大の把握には全く役立たなかった(図1).
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