連載 厚生行政ホントの話・11
SARSを巡るWHOのもう1つの攻防
迫井 正深
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1厚生労働省大臣官房厚生科学課
pp.901
発行日 2003年11月1日
Published Date 2003/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100981
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SARSは健康危機管理のあり方,ひいては公衆衛生の概念に一石を投じた.同時にWHOは,史上初の渡航延期勧告という“伝家の宝刀”を抜き,国際社会でSARS対策に勝利,「ここにWHOあり!」を多くの人々に知らしめた.公衆衛生史上,かくもエポックメイキングな事件をまとめた本号の特集号は,さしずめ「永久保存版」であろう.その末座を借りて,SARSを巡るWHOのもう1つの攻防をご紹介したい.
SARS対策が注目される中,ジュネーブで開催された本年5月のWHO総会でWHOは,当面必要なSARS対策強化に関する一連の決議案を提出した.この中でWHOは,ある内容に強くこだわった.WHOによる単独調査の実施である.念頭にあったのは中国広東省での実態把握の遅れと,その後の感染拡大だった.本号特集内・押谷論文にもあるとおり,昨年11月に中国広東省で発生したとされるSARSでは,当初から,再三にわたるWHOからの現地調査実施要請や情報提供依頼に対して,中国政府の反応が非常に鈍く,実態把握がほとんどできなかった.これがその後の対応を遅らせ,感染拡大の一因となったと言われている.WHOはこの苦い経験をもとに,次のような一文を決議案に加えた.「WHOは,必要な対策を確保するため,場合によっては関係政府に連絡後,WHOによる調査を実施する」(原文英語,筆者訳.以下同).それはつまり,採択されれば,曖昧ながらWHOによる単独調査に道を残す内容だったのである.
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