アニュアルレポート
衛生学の動向
山内 徹
1
1三重大学医学部公衆衛生学
pp.214-216
発行日 2003年3月1日
Published Date 2003/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100829
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2002年のことども
21世紀に入って2年が経過した.比較的平穏に20世紀が終わり,穏やかに迎えるはずだった21世紀は,多発テロで不穏なスタートであった.2002年に入っても続いたテロ的事件とその対策は,アフガニスタン空爆のように「テロ撲滅のためならすべてが正義」という新たな価値観を世界に持ち込んだ.テロ自体も最大の恐怖であるが,体制に対する抵抗や民族の独立運動もテロと一束に括ってしまう乱暴な論理もある種の「危険」を感じさせる.また,炭疽菌テロの発生に伴い「生物化学兵器のテロ対策」のために,大学研究室の薬品や保存微生物の管理の徹底強化が通達されるなど,テロが「身近な危険としての存在」であることを感じさせられた.一方,国内での狂牛病(牛海綿状脳症:BSE)の発生は,それ自体が日常の食生活に「恐怖」を与え,同時に行政のBSE対策を悪用した食肉業界の度重なる不正が,「食品への不信感」を国民に植え付けた.国民の生命と健康の源たる「食」を揺るがす「大きな危険」であった.
衛生学は,Mc von Pettenkoffer 以来,人々の健康を環境要因との関連の視点から追求してきた.衣食住を基本とした生活環境要因から,地域社会の環境,さらには地球環境と,関心の所在や問題性の軽重は時代と共に変化しても,常に各レベルの環境要因と健康の関連が衛生学の研究課題の中心であった.21世紀初頭の上記の諸々の事件は,さらに衛生学の課題に「環境危機管理」の視点の必要性を物語っている.
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