連載 グローバリゼーションと健康・7
グローバル化とエイズ―ブラジルで生まれた政府と市民社会の協力の経験
小貫 大輔
pp.579-582
発行日 2005年7月1日
Published Date 2005/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100771
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すべてのエイズ患者に抗レトロウイルス治療(以下,ART)を無料で保障するという,世界で最も先進的なエイズ政策を96年より維持してきているブラジル.ブラジル政府は,この政策の維持のためにコピー薬の国内生産を実施して,アメリカ政府からWTO(世界貿易機関)に提訴されながらも,国際世論を背景にその提訴を取り下げさせ,パテント(特許権)破りをカードにした製薬会社との激しい価格交渉を展開するなどして,「知的所有権vs患者の生存権」の闘いのシンボル的存在として注目を浴びてきた.
ARTの無料保障はブラジルにとって突出して高価な政策だが,この政策が成立し維持されてきた背景には,エイズへの取り組みを「基本的人権」の問題として位置づける社会的理解がある.その理解が生まれる過程は複雑だが,あえて単純化の危険を冒して述べるなら,「政府」と「市民社会」の連帯が生まれた時に初めて可能となった過程だと言えよう.「グローバル化と共に巨大化する市場の圧力に抗しうる社会を作るためには,市民社会という勢力が国家という勢力と力を結ぶ必要がある」というのは,ニカノール・ペルラス(フィリピンの思想家)の主張である.エイズ治療薬の無料提供をめぐって,ブラジルの市民社会と政府が結んだ協力関係は,そのようなアライアンス(同盟)の具体的な例と言えよう.
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