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■症例
75歳の男性。身長170cm,体重58kg,BMI 20。ここ数か月,軽度の労作時呼吸困難と慢性の咳嗽を自覚していた。健診での胸部異常影を契機に精査を受け,右下葉の肺腺癌(cT1cN0M0,StageⅠA3)と診断された。喫煙歴は20本/日×55年と長いが,ほかに重篤な併存疾患はなく,根治的手術を目的に呼吸器外科へ紹介され,胸腔鏡補助下右下葉切除が予定された。
術前の肺機能検査では,1秒量(FEV1.0)1.35 L,1秒率(FEV1.0%)60%と低下を認め,中等度の閉塞性換気障害が示唆された。胸部CTではびまん性の気腫性変化に加え,気道内に軽度の粘稠性分泌物が認められた。術前の経皮的末梢動脈血酸素飽和度(SpO2)は安静時でも94%(室内気)とやや低値であった。
麻酔方法は全身麻酔+硬膜外麻酔を予定した。
■麻酔経過
硬膜外カテーテルをT7/8から挿入した。導入はレミフェンタニル,プロポフォール,ロクロニウムで行い,左用ダブルルーメン気管支チューブdouble-lumen endobronchial tube(DLT)を気管挿管した。麻酔維持は全静脈麻酔(TIVA,プロポフォール+レミフェンタニル)+硬膜外麻酔で行い,train-of-four(TOF)カウント0〜1の筋弛緩状態を保つように,適宜ロクロニウムを10mgずつ投与した。
術中,一側肺換気での酸素化はP/F比200前後で,痰貯留によると思われる酸素化低下を頻回に認め,その都度,気管内吸引で改善した。術中の肺の虚脱はやや不良であったが,明らかなリークや肺損傷は認められず,胸腔ドレーンを挿入し閉胸した。手術は4時間10分で終了した。
術後鎮痛のためにフェンタニルとアセトアミノフェン,硬膜外カテーテルからロピバカインを投与した。術後胸部X線写真では,右上葉の無気肺を認めたため,気管内吸引とリクルートメントを行った。
スガマデクスで拮抗し,TOF比>0.9を確認し,覚醒とともに自発呼吸を認めたため,抜管した。従命は良好で,numerical rating scale(NRS)は3点。血圧は135/87mmHg,酸素3L/min(フェイスマスク)でSpO2 98%とバイタルサインに異常はなく,麻酔後ケアユニットpost anesthetic care unit(PACU)へ移動した。麻酔時間は5時間30分であった。
PACUに搬送された直後は安定していたが,15分後にSpO2が徐々に低下し,不穏となった。high care unit(HCU)は満床であり,病棟へ帰室する予定である。
さて,あなたならどうする?

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