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はじめに
愛媛県愛南町にかかわりはじめて30年目を迎えている.「地域づくり」をしようと考えてきたわけではないが,自分自身が住む町,家族が住む町,また,専門職としてかかわらせていただく多くの人たちが住む町をどうしていくか,常に考え,行動してきた.地域ケアを充実し精神科病床を閉鎖する等,一定の成果も上げてこられたとも思う.かかわりはじめの10年は,ただただ,がむしゃらに行動を起こした.多くの人の声をまっすぐ受け止め,正しいと信じた方向へまっすぐ進んだ.しかし,立ち止まって,自分と関係するすべての方,一人ひとりのことを丁寧に見直すと,当時の活動の延長線上にゴールを見いだせなくなり,大きく方向転換した.さらにそこからまた異なる方向へ全力で取り組み続けた.
その最中に直面したのが東日本大震災であった.それまでのどの考え方でも通用しない,深い深い出来事に出会い続けた.その気づきをもって,愛南町の足元を見直してみると,また,方向転換が必要なことがみえてきた.熊本地震,西日本豪雨,そして新型コロナウイルス感染症のパンデミック.筆者の中で,音楽等の文化や環境問題からスタートした地域に対する課題意識は,やがて,切迫した地域経済,産業へ広がり,そこからは生活に関するすべてのことを視野に入れるようになった.
専門職としても,精神障害者の社会参加,長期入院から,認知症,高齢者の地域ケア,さらにすべての障害のある方のこと,いわゆるひきこもり等,さまざまな課題に取り組んできた.そしてこれからを生きる子どもたちのことに重点を移行させつつ,視野と行動範囲を広げてきている.もちろん,ローカルな視点だけではなく,日本全体の急激な縮小にようやく目が向きはじめた国策の遅れも,1950年(昭和25年)に人口のピークを迎えた愛南町で,ひしひしと感じ続けている.
筆者らの実践の概略と,これまで,その時々に考えてきたことを紹介したい.また,経営者としては,「地域づくり」の中で作業療法士が役割を果たせる枠組みをつくってきた.その中で手探りの実践を重ねている様子を,後半でコラムとして,本人の言葉で伝えてもらう.
「地域づくり」は決してトップダウンのものではなく,画一的なものでもなく,町に住む人々,かかわる人々,また長い歴史や風景,環境,経済,あらゆることが重なり合い,積み重なっていくものである.ただ,一人ひとりが無力だと言いたいわけではない.毎日,一つひとつを丁寧に積み重ねることで,近い将来や未来を変えていけることを体験している.
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