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本特集号は,日常診療上のピットフォールとなる可能性がある消化管感染症にスポットを当てた.想定外あるいは見落としやすい疾患の特徴や,新規薬物療法に伴う免疫抑制状態から生じる回帰感染などさまざまな疾患に関する総論に引き続き,疾患に対する読者の興味が湧くような問題形式を採用してみた.
消化管感染症は原因別に,①ウイルス性,②細菌性,③寄生虫性に大別される.これらに伴う粘膜傷害所見は,時に診断に苦慮したために治療が遅れたり,狭義のIBDと類似するため逆の治療法を選択することで病態を増悪させることもある(症例問題集の河野論文).また腫瘍性病変との鑑別を要する場合があり注意が必要である.この分野を牽引されてきた清水誠治先生と大川清孝先生に知恵を授かるのは,得るものが極めて大きいため序説や主題のご執筆などでご苦労をおかけした.本企画小委員会からの無理強いにお応えいただき,知識が整理されたことを両氏には改めて誌上で感謝申し上げたい.主題の大川論文からは,細菌性腸炎とウイルス性腸炎との病態・症状の差がどのように画像に反映され治療法の選択につながるかというこれまで漠然としていた知識が整理された.腫瘍性疾患と異なり,感染性胃腸炎は経験した症例数の違いにより診断までの時間が異なることは想像に難くない.また寄生虫や一部の感染症は地域性(北海道,九州・沖縄)もあり全く自験例を持たない疾患もあろう.これは主題の藤田論文や,症例問題集から順不同で画像と診断のポイントを記憶にとどめ,学会や研究会などに役立てるのもよいだろう.診断が難しいという観点は,“梅毒を制するものは,医学を制する(He who knows syphilis knows medicine.)”(by William Osler)との言葉が表すように,特に梅毒は臨床症状や所見が多種多彩であり,医師が疑わなければ早期に診断にたどり着けない疾患である.本邦の梅毒報告数の推移をみると2012年875人,2022年は13,220人であり,10年間で約15倍と急増している.これについては主題の合原論文を詳読いただきたい.症例問題集でも胃梅毒の他,直腸梅毒も取り上げた.また主題の蔵原論文や症例問題集にもあるように,過去の疾病と誤解されがちである結核菌による消化管粘膜傷害は,忘れたころに遭遇する.さらに近年では抗菌薬の汎用や新規化学療法の進歩,IBD患者への分子標的薬などの使用により宿主免疫能低下を来した結果,予期せぬ消化管疾患にも遭遇することがあり,その所見を記憶しておくことはdoctor's delayを防ぐ意味でも臨床上極めて重要である.中でもサイトメガロウイルスによる消化管粘膜傷害は古くから知られており症例問題集でも各臓器について満遍なく執筆いただいた.また最近の話題としては,SARS-CoV-2感染症による消化管粘膜傷害も記憶しておきたい(症例問題集の山崎論文).内視鏡所見だけで疾患が想定しやすいもの,生検や培養による裏付けが必要なものなどさまざまであるが,その検査方法や鑑別方法を熟知しておく必要がある.ノートの二村論文は生検診断のコツやピットフォール・限界に明るいので,ぜひ参考にされ日常内視鏡診療上での生検部位には留意されたい.

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