小児期トラウマに基づく幻覚・妄想

Hallucinations and delusions resulting from Childhood Trauma

抄録

　幻視や幻聴などの病的体験または病的とまで言えない微弱な体験は，特に若年者の診療においてしばしば遭遇する。近年，トラウマの視点からそれらの現象を実証しようとする試みが進んでいる。トラウマによる幻覚や妄想などの精神病体験の報告について，前世紀からの歩みを概観し，これまでに蓄積された研究を紐解きながら，被虐待，いじめ被害などの小児期トラウマが引き起こす幻視や幻聴，妄想という観点を提示する。最後に，幻覚や妄想などの精神病症状の治療において，トラウマに焦点化した精神療法がより根源的なアプローチになる可能性について言及する。