増大号 超実践! 病理で迫るがんゲノム医療—検査から治療まで
5章 がんゲノム検査の診断的有用性:分子遺伝学的分類など
軟部腫瘍—がんゲノム検査の診断的有用性と分子病理学的診断の現在
森 泰昌
1,2,3
1国立がん研究センター中央病院病理診断科
2国立がん研究センター中央病院遺伝子診療部門
3国立がん研究センター研究所・分子病理分野
キーワード:
骨軟部腫瘍
,
分子病理学的診断
,
ゲノム検査
,
FISH
,
RNAシークエンス
Keyword:
骨軟部腫瘍
,
分子病理学的診断
,
ゲノム検査
,
FISH
,
RNAシークエンス
pp.1182-1186
発行日 2025年10月15日
Published Date 2025/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.048514200690101182
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
肉腫は軟部組織,骨などから発生し,全ての年代,性別で発症する希少がん(6人/10万人以下の疾患)である.多彩な分子異常を背景に50種以上のサブタイプが存在し,診断には組織学的な形態のみならず分子病理学的な診断方法が恒常的に用いられている.代表的な病理組織型として,脂肪肉腫,血管肉腫,軟骨肉腫,横紋筋肉腫,Ewing肉腫,骨肉腫,悪性末梢神経鞘腫瘍(malignant peripheral nerve sheath tumor:MPNST),滑膜肉腫,類上皮肉腫などがあり多岐にわたる.近年,さらに分子生物学的に多くの進展があり,この領域固有の困難さをさらに複雑にしている.
臨床的にはゲノム診断に進む段階で,病理組織での腫瘍率やマクロダイセクションの必要性などの判定と同時に病理診断の確度を高めるために分子病理学的診断が求められる.分子病理学的診断は3つの大きなアドバンテージを有している.1つは,分子的な異常を特異的な抗体による免疫染色で判定が可能であることである.そして腫瘍率が極めて低い組織や十分な核酸が得られない小さな検体でin situの細胞レベルでの評価が可能であることである.3つ目として,これらの評価はゲノム解析を補助するのみならず,早いターンアラウンドタイムで臨床医にフィードバックできることである.
本稿では,代表的な肉腫の診断に関わる分子異常について概説するとともに,肉腫に有用な分子病理学的診断について述べる.

Copyright © 2025, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.