Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
Ⅰ.はじめに,そして,おわりに
「自己と他者の脳内表象と人工知能について」という,なかなかに難解なテーマで執筆依頼をいただき,どうしたものかと悩んでいたら原稿締切をとうに超えてしまった。大変申し訳ない。筆者の雑感を6,000字にもわたる稚拙な文章でご説明する前に,最も主張したい内容をはじめに書き終えてしまおうと思う。筆者自身は“自己と他者の脳内表象”というテーマで長く行動神経科学研究に携わっているが,昨今,多様なレイヤーに徐々に人工知能が入り込み,神経科学とコンピューターサイエンスが融合していく未来をひしひしと予感する。あまりにも人工知能という言葉が世界に氾濫しすぎているため,現代技術におけるどこまでを“人工知能”という言葉で十把一絡げにするか悩むところではあるが,本質的に神経科学研究における人工知能(と,それに準ずるもの)の台頭は大きく2つに大別される。“①実験手法としての人工知能の利用”と“②脳の働きを理解するための人工知能の利用”である。
まず,実験手法としての人工知能について取り上げよう。例えばマウスやショウジョウバエといったモデル動物の行動を定量する実験では,かつてはストップウォッチを手にした職人のような研究者・テクニシャンたちが,「この個体は右に10秒行った」,「この相手と30秒,相互作用していた」といった行動データを気合と根性で収集していた。一方,現代では映像データを基に,DeepLabCutのような深層学習型アルゴリズムが体幹の多点のx,y座標を自動的にトラッキングできるようになり,そのx,y座標をベースに行動をマイニングすることが可能となった(この方法については,筆者らの研究を例に後述したいと思う)。また,異なる角度からの複数のカメラを用いて同時記録することによって,x,y,z座標,および,時間tでの行動の数値記載も可能となり,更には2匹や3匹といった複数個体を同時に記録することも可能となりつつある。おそらく,将来的には同時に記録可能な個体数のみならず,トラックできる点も無数に増え,社会構造そのものを網羅的に数値化できる時代が来るのであろう。行動というメタでマクロな情報に対して,これまで研究者は何らかの主観的な切り口によって定量を行い(例えば,前述の例で言えば“個体が右に行く”ことに意味があると仮説を立てているから,その時間を計測するモチベーションになっていたわけである),因果関係の証明を持ち込むことでその内部構造・内部メカニズムにアプローチを行ってきた。今後はおそらくノンバイアスでマクロな行動変容を定量できる時代が到来するのであろう。その行動現象に果たしてどのような意義があるのかの解釈は難しくなる一方,マイニングという点で優れた手法であることはまちがいない。

Copyright © 2026, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.

