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従来,タンパク質バインダー設計の分野では,分子表面の幾何学的形状相補性や,物理化学的エネルギー関数に基づく手法が主流であった1)。形状相補性を利用する手法は計算効率が良く大規模なスクリーニングが可能であるが,分子の柔軟性や化学的性質などを考慮することが難しかった。一方,物理化学的エネルギー関数に基づく手法は,静電相互作用やファンデルワールス力などを考慮することによってアミノ酸残基間の相互作用をより精密に予測することを可能にしたが,計算負荷が非常に大きかった。また,いずれの手法においても,数千〜数万もの候補の実験的なスクリーニングや,yeast displayなどによる親和性成熟を行わなければ,実用レベルの分子を得ることは困難であった。
近年の深層学習モデルの発展により,タンパク質バインダー設計を取り巻く状況は大きく変化した1)。AlphaFold2(AF2)2)の学習方法や損失関数を複合体予測に最適化したGoogle DeepMind社のAlphaFold-Multimer3)は,速度・精度共に従来法を大きく上回る性能を示し,またpLDDT(predicted local distance difference test)やPAE(predicted aligned error)などのスコアは設計した分子を評価・選別する重要な指標となった。更に,ワシントン大学のBaker研究室で開発されたProteinMPNN4)は,タンパク質のバックボーン構造に対して,合理的なアミノ酸配列を設計することを可能にした。David Baker,Demis Hassabis,John Jumperらに授与された2024年のノーベル化学賞は,計算機によるタンパク質構造予測および設計のパラダイムシフトを象徴する出来事である。しかしながら,これらのツールを用いてもなお,複合体構造予測の精度や設計空間の膨大さから,実験的スクリーニングを経ずに高親和性バインダーを得ることは依然として困難なタスクであり続けている。

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