日本内視鏡外科学会雑誌 20巻5号 (2015年9月)

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◆要旨:高度肝機能障害(ICG 15分値35%以上,肝障害度B)を有した肝細胞癌(肝癌)に対する腹腔鏡下肝切除術症例(n=9,LH群)と開腹下肝切除術症例(n=9,OH群)の治療成績を比較検討した.LH群で開腹移行例はなく,手術時間および出血量は2群間で差はなかった.術後合併症はLH群で1例(11%),OH群で5例に認めた(P=0.13).LH群はOH群よりも術後疼痛からの回復が早く(P=0.03),術後在院日数が短かった(中央値11日vs 14日,P=0.04).進行度は2群間で差はなく,全生存率(P=0.19)および無再発生存率(P=0.95)に差はなかった.結論:高度肝機能障害を有する肝癌症例に対して腹腔鏡下肝切除術は有用な治療選択肢になると考えられる.

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◆要旨:患者は77歳,男性.糖尿病・高血圧・陳旧性心筋梗塞の既往歴があった.3か月前に下部直腸癌に対し腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を施行し,傍ストーマヘルニアの予防のため後腹膜経路にてS状結腸人工肛門を造設した.今回突然の腹痛を主訴に当院を受診し,腸管穿孔に伴う汎発性腹膜炎の診断にて緊急手術を施行した.S状結腸人工肛門の腹膜トンネルの入口部に穿孔部を認め,同部位を切除後,横行結腸人工肛門を造設した.標本肉眼所見では人工肛門の腹壁固定部と後腹膜経路への入口部の粘膜に潰瘍を認め,病理所見は虚血性腸炎に矛盾しない所見であった.人工肛門の造設経路について若干の文献的考察を加え報告する.

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◆要旨:患者は65歳,男性.腹痛・嘔吐を主訴に前医を受診し,上部消化管内視鏡検査で早期胃癌を,CTで左横隔膜にBochdalek孔ヘルニアを指摘された.胃癌に対する内視鏡的切除が非治癒切除となり,追加切除目的に当院紹介となった.胃癌のリンパ節郭清と今後のヘルニア嵌頓のリスクを考慮し,同時手術にて腹腔鏡補助下に胃切除およびヘルニア修復術を行った.気腹による胸腔内圧上昇に胸腔トロッカーを要し,ヘルニア門修復での視野確保には用手補助を追加したが,腹腔鏡下に幽門側胃切除とヘルニア根治術を完遂した.これまでに横隔膜ヘルニアと悪性腫瘍とを同時に手術した報告はなく,若干の文献的考察を加えて報告する.

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◆要旨:患者は55歳,男性.2〜3年前から右鼠径部の膨隆を認めたが,その都度自己還納していた.前日の夜からの腹痛,右鼠径部の腫大,頻回の嘔吐を主訴に当院を受診した.腹部CT所見では,骨盤内に囊状に包まれ拡張した小腸とその周囲に腹水を認めたため,鼠径ヘルニア偽還納によるイレウスと診断した.第二病日,小腸の減圧目的でイレウス管を挿入し,第三病日,腹腔鏡下手術を施行した.回腸が外側臍襞と内側臍襞の間の壁側腹膜に陥入し腹膜前腔に腫瘤を形成していた.ヘルニア門を形成する肥厚した腹膜を切開し嵌頓を解除し,鼠径ヘルニアについては通常のtransabdominal preperitoneal approach(TAPP)法でメッシュを用いて修復した.

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◆要旨:患者は62歳,男性.嚥下困難の精査で胸部下部食道癌と診断され,CTでS状結腸にも腫瘍性病変を認めた.食道癌はcT3,N2,M0,StageⅢ,S状結腸癌はcT3,N1,M0,Stage Ⅲaと診断し,Ⅲ期食道癌に対する術前化学療法としてDCS療法(docetaxel, cisplatin,S-1の3剤併用療法)を2コース施行した.両病変の縮小を認め根治切除可能であると判断し,内視鏡下に一期的に切除する方針とした.まず腹臥位でD2郭清を伴う胸腔鏡下食道切除を行い,次に砕石位で腹腔鏡下に大彎側胃管を作製し後縦隔径路にて再建した.引き続いてD3郭清を伴うS状結腸切除再建を行った.術後経過は良好で,現在も無再発生存中である.

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◆要旨:患者は79歳,女性.腹痛と嘔吐を主訴に近医を受診し,多発性胃潰瘍との診断でproton pump inhibitorsを投与されたが症状が改善せず当院紹介となった.治療中に嘔吐症状の再燃を認めた.上部内視鏡検査で胃石を認めたため,溶解療法を施行した.その後,胃内に胃石が残存し,小腸へ移動した胃石がイレウスを呈し,イレウス管挿入による保存的治療に抵抗性であったため手術適応と判断した.溶解療法後6日目に,腹腔鏡下の胃前壁切開による胃石摘出および回腸末端の胃石の鉗子による破砕を施行した.術後経過は良好で,術後第10病日に退院となった.内科的治療に抵抗性の胃石および胃石に伴うイレウスに対して,腹腔鏡下手術は有用な選択肢の1つになりうると考えられた.

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◆要旨:膵頭部が嵌頓し,胆汁うっ滞をきたした稀な巨大食道裂孔ヘルニアの手術例を経験したので報告する.患者は74歳,女性.肝機能障害の精査で巨大な食道裂孔ヘルニアを認めた.上部消化管造影では胃軸捻転を伴い全胃が縦隔内に脱出したupside down stomachを認めた.CTでは胃,膵頭部,横行結腸や小腸が縦隔内に脱出しており,MRCPでは胆管が頭側に変位し胆管の拡張を認めた.肝胆道系酵素の上昇を認めたが,胆管炎や膵炎はなく,消化器症状も認めなかった.待機的に腹腔鏡下食道裂孔ヘルニア修復術を施行した.術後,肝機能障害は改善し,ヘルニアの再発を認めていない.

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◆要旨:患者は73歳,男性.約2年前より時々右下腹部痛があったため,腹部CT検査を施行したところ,右腹直筋外縁に脱出する腸管が認められ,スピーゲルヘルニアと診断した.膨隆がみられず,体表からはヘルニア門の触診が困難であったこと,開腹既往がなかったことから,術式は,腹腔鏡下修復術を選択した.右腹直筋外縁のスピーゲル腱膜部に径約2cmのヘルニア門を認め,9cm円型ParietexTM Composite(PCO)meshを用いて修復した.スピーゲルヘルニアに対する腹腔鏡下修復術は,ヘルニア門の正確な術中診断が可能であることからよい適応であり,体表からヘルニア門の同定が困難であった本症例では,特に有用であった.

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◆要旨:患者は87歳,女性.以前に正常圧水頭症に対して脳室腹腔シャント(VPS)留置術を施行されていた.上部消化管内視鏡検査にて胃角部小彎に径40mmの0-Ⅱa+Ⅱc型胃癌および前庭部小彎に径10mmの0-Ⅱa型胃癌が認められた.VPSが逆流防止機構付きであり,特別な処置をすることなく腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した.術後経過に異常はなかった.近年,VPS留置例に対する腹腔鏡下手術症例の報告が散見されるようになってきたが,胃癌手術の報告例はごくわずかである.逆流防止機構付きVPS症例においては,特別な処置をすることもなく合併症なく腹腔鏡下幽門側胃切除術施行できる可能性が示唆された.

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◆要旨:患者は41歳,女性.心窩部痛と黒色便を主訴に来院した.3年前の健診で胃前庭部の粘膜下腫瘍を指摘されていた.胃内視鏡で粘膜下腫瘍からの出血を認め,焼灼止血した.超音波内視鏡では一部に囊胞様の無エコー域を認め,病変の首座は第3層に存在した.増大傾向はなかったが出血をきたしており切除の適応と考えられた.胃の変形を防ぐため,また胃内発育型であることより腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(LECS)を行い,孤立性胃粘膜下異所腺と診断した.孤立性胃粘膜下異所腺の多くは症状に乏しいが,稀に出血をきたしうる.胃内発育型の孤立性異所腺に対して最低限の切除に抑えられるLECSは有用な治療選択肢になりうると思われた.

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◆要旨:患者は64歳,女性.下部消化管内視鏡検査でS状結腸癌を認めた.造影CTで腹部大動脈周囲の後腹膜が著明に肥厚し,左水腎症も認めた.血清IgG4が高値で,IgG4関連後腹膜線維症を合併したS状結腸癌と術前診断した.尿管ステントを留置し,腹腔鏡下後腹膜生検とS状結腸切除術を施行した.後腹膜組織の迅速病理検査では悪性所見を認めなかった.S状結腸切除では,腸間膜の剝離授動や血管処理に難渋した.さらに経肛門的な腸管吻合が困難で,小開腹下に手縫い端々吻合で再建した.後腹膜生検を安全に行うには,生検部位の術前評価や生検方法が重要である.また,後腹膜線維症を合併したS状結腸切除術では,腸間膜の剝離授動や吻合に際して注意を要する.

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◆要旨:患者は77歳,男性.1か月前より続く左胸壁の痛みを主訴に受診した.左第6,7肋間付近に紫斑を伴う弾性軟,大きさ2cm程度の腫瘤を触知した.CT検査では,心膜より連続する脂肪組織が肋間より胸壁を経由し皮下へ膨隆している所見を認めた.この腫瘤に対し,胸腔鏡下切除術を施行した.術中所見では,画像所見同様,心臓周囲の脂肪組織が一部膨隆して肋間に引き込まれており,ヘルニア様の状態であった.脂肪組織と心膜,また胸壁組織のそれぞれの境界は不明瞭であり,鋭的に剝離を行い切除した.病理組織検査では,脂肪腫の診断であり,存在形態より傍心膜脂肪腫の胸壁陥頓,癒着であった可能性が高いと考える.稀少な形態を示す縦隔内脂肪腫であったが,これに対して胸腔鏡下で切除しえたため,若干の文献的考察を加えて報告する.

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◆要旨:腹腔鏡下大腸癌手術における近赤外線蛍光内視鏡イメージングシステムを利用した術前マーキング法を経験したので報告する.手術前日から2日前に,内視鏡下に通常の点墨(0.2ml)に併せ腫瘍周囲の粘膜下層に0.25%ICG溶液を0.5ml局注した.術中,近赤外線蛍光内視鏡装置(PINPOINT System,NOVADAQ社製)を用いて,可視光モードおよび蛍光モードで,腹腔鏡下にマーキングされた腫瘍部位を観察した.可視光モードで点墨の視認が困難であった3例について報告する.蛍光モードでは全例ともICGを視認でき,腫瘍部位を確実に同定することが可能であった.PINPOINTはリアルタイムな腹腔鏡下手術の遂行も可能であり,次世代の大腸癌術前マーキング法・腹腔鏡ユニットとして期待される.

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◆要旨:[目的]細径デバイスによるtotal extraperitoneal repair(TEP)法の手術手技・成績を報告する.[方法]トロッカーは12mm-3mm-3mmとし,エネルギーデバイスは3mmモノポーラー剪刃のみ使用した.従来式TEP法群23例,細径式TEP法導入後の前期群26例と手技の安定した後期群24例の手術成績を検討した.[結果]手術時間中央値は後期群で片側67.5分,両側101分であり,従来式群と有意差はなかった.修復を要した腹膜損傷は細径式群全体の5.0%(3/60)であった.各群とも再発は認めていない.[結論]本法は細径化と手術クオリティの保持を両立しうる有用な術式である.

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日本内視鏡外科学会への入会について

EVENT NEWS

投稿時のチェックリスト

編集後記 大須 賀穣
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 人がロボットに突然つかまれて金属プレートに押し当てられて死亡するという痛ましい事故が海外で起こった.もっとも,このロボットはダビンチなどではなく,大手自動車工場での工業用ロボットによる事故である.普段とは異なる特別な状況下で起きた事故であるが,さっそくインターネット上では責任の所在などがどこになるかなど医療事故をほうふつとさせる問題が話題となっている.翻って手術室を考えてみるにダビンチなどのロボットの進化が外科手術の領域に着々と影響を及ぼしている.そこで,この事故のニュースを聞いてふと考えた.一般に,医療用機器は厳しい品質管理のもと現場に届けられ,特に動力を伴うものではかなりの安全性が確保されている.とはいっても,我々が普段から正常に作動すると考えているデバイスやロボットが誤作動する可能性は完全にはゼロにできないであろう.今回のような事件のニュースを聞くと手術機械の進化の将来にはSF小説のような制御不能な機械の暴走が起きるのではないかと変な心配をしてしまう.しかるに,実際には誤作動した場合のことを考えて手術をすることは少ないのではないか.やはり,手術の進化のためにはリスク管理が重要で,エラーを可能な限りゼロにする努力とエラーが起きた時の対処のトレーニングを普段から積んでおくということが必要である.

 一方このようなリスク管理の対極として,電気や動力で駆動する機械に頼らない手術,すなわち,外科医の原点としての基本的な手術手技を常に向上させておく必要がある.その意味では本会誌の果たしている役割は大きいと考える.本会誌には会員の先生方の投稿により,基本的な鉗子を用いた魅力的な創意工夫や電気や動力に頼らずに手術を向上させる器具の開発などが原著論文や症例報告に交じって掲載される.これらの論文を読んだ先生方が更なる改良や工夫をなされることにより,ある意味ローテクかも知れないが安全で効率的な医療につながると考える.本会誌の発展と会員への利益のためにも,優れた工夫や開発はローテクであっても今後とも積極的に投稿していただきたいと思います.

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第28回日本内視鏡外科学会総会を以下の通り開催いたします.会員の皆様には多数ご参加いただきますようお願い申しあげます.

第28回日本内視鏡外科学会総会

会長  松田 公志

会 期:2015年12月10日(木)〜12日(土)

     (10日朝からプログラムを開始します)

会 場:大阪国際会議場

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
20巻5号 (2015年9月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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