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人がロボットに突然つかまれて金属プレートに押し当てられて死亡するという痛ましい事故が海外で起こった.もっとも,このロボットはダビンチなどではなく,大手自動車工場での工業用ロボットによる事故である.普段とは異なる特別な状況下で起きた事故であるが,さっそくインターネット上では責任の所在などがどこになるかなど医療事故をほうふつとさせる問題が話題となっている.翻って手術室を考えてみるにダビンチなどのロボットの進化が外科手術の領域に着々と影響を及ぼしている.そこで,この事故のニュースを聞いてふと考えた.一般に,医療用機器は厳しい品質管理のもと現場に届けられ,特に動力を伴うものではかなりの安全性が確保されている.とはいっても,我々が普段から正常に作動すると考えているデバイスやロボットが誤作動する可能性は完全にはゼロにできないであろう.今回のような事件のニュースを聞くと手術機械の進化の将来にはSF小説のような制御不能な機械の暴走が起きるのではないかと変な心配をしてしまう.しかるに,実際には誤作動した場合のことを考えて手術をすることは少ないのではないか.やはり,手術の進化のためにはリスク管理が重要で,エラーを可能な限りゼロにする努力とエラーが起きた時の対処のトレーニングを普段から積んでおくということが必要である.
一方このようなリスク管理の対極として,電気や動力で駆動する機械に頼らない手術,すなわち,外科医の原点としての基本的な手術手技を常に向上させておく必要がある.その意味では本会誌の果たしている役割は大きいと考える.本会誌には会員の先生方の投稿により,基本的な鉗子を用いた魅力的な創意工夫や電気や動力に頼らずに手術を向上させる器具の開発などが原著論文や症例報告に交じって掲載される.これらの論文を読んだ先生方が更なる改良や工夫をなされることにより,ある意味ローテクかも知れないが安全で効率的な医療につながると考える.本会誌の発展と会員への利益のためにも,優れた工夫や開発はローテクであっても今後とも積極的に投稿していただきたいと思います.
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