作業療法 35巻2号 (2016年4月発行)

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◆研究論文

高齢者の作業に対する主観的評価の分析─フローモデルを基にした検討吉田　一平 , 美馬　寛子 , 野中　哲士 , 小林　隆司 , 平尾　一樹 35巻2号 , 2016年4月 , pp.113-122

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要旨：本研究の目的は，作業療法で支援する作業に対する高齢者の主観的評価について，フローモデルを基に「挑戦水準」と「能力水準」のバランスを用いて分析することである．対象は通所リハビリテーションを利用する高齢者27名とし，高齢者に適した作業課題を設定後，課題に対する「挑戦水準」と「能力水準」を聴取した．結果，高齢者が知覚する「挑戦水準」と「能力水準」は様々であり，バランスが保たれていない場合が多かった．以上より，作業に対する「挑戦水準」と「能力水準」のバランスを評価することは，高齢者に適した作業課題を提供する上で考慮すべき主観的評価の一側面を捉え，作業療法実践における協働の促進につながると考える．

脳腫瘍のクライアントと作業療法士の治療的関係に関する文献研究原田　佳典 , 鹿田　将隆 , 野藤　弘幸 35巻2号 , 2016年4月 , pp.123-137

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要旨：脳腫瘍のクライアントと作業療法士の治療的関係を文献により検討した．国内文献を検索し，原著論文6編と会議録8編を対象文献とした．人間作業モデルの概念をもとに，治療的関係のエピソードを，クライアントが作業療法に取り組む中で考え，感じたことを表明する作業従事と，それを促すために作業療法士が行う治療戦略から検討した．その結果，クライアントと作業療法士は，能力低下に関する認識と感情を明らかにするとともに，ニーズである作業に従事する手続きを計画し，その継続を支援する治療的関係をとっていたことがわかった．今後，本研究で得られた治療的関係の作業療法実践への妥当性を検討する必要がある．

児童における描画特徴，書字の読みやすさおよび運筆動作に影響する運動機能の特性池田　千紗 , 中島　そのみ , 大柳　俊夫 , 後藤　幸枝 , 仙石　泰仁 35巻2号 , 2016年4月 , pp.138-148

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要旨：本研究は，手先の不器用さと書字や描画の苦手さを訴える児（不器用児）の描画課題の遂行結果の特徴（描画特徴）と運筆動作の関連，およびそれらに影響する運動機能の特性と書字の読みやすさの傾向を検討した．液晶タブレットを用いた描画課題において，不器用児は描画が不正確で運筆速度が試行ごとにばらつき，運筆動作が定型発達児と異なっていた．また描画が正確でも運筆動作が定型発達児と異なる不器用児がおり，描画特徴だけで運筆の問題を評価すると，運筆動作に問題を抱える不器用児を見逃す可能性が示された．描画が不正確な不器用児は書字が読みにくく姿勢保持に問題を示し，運筆の遂行結果には姿勢保持が最も影響すると考えられた．

回復期リハビリテーション病棟退院後の患者における公共交通機関利用の予測因子小川　真寛 , 澤田　辰徳 , 三木　有香里 , 林　依子 , 真下　高明 35巻2号 , 2016年4月 , pp.149-158

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要旨：本研究の目的は回復期リハビリテーション病棟入院中の患者の能力から退院後の公共交通機関利用の可否を予測することにある．退院後の電車およびバス利用の有無を調べ，その有無で分けた2群間で入退院時の能力を比較した．ロジスティック回帰分析の結果，電車利用の予測に選択された入院時の因子は年齢とFIMの運動項目の合計スコアであった．バス利用の予測に選択された入院時の因子は年齢とFunctional Balance Scale（以下，FBS）であった．退院時の能力は電車およびバス両方でFBSのみが選択された．この知見を利用し公共交通機関の利用可能性がある対象者を早期より見定め，適切な外出手段が獲得されるようにアプローチする必要がある．

リーチ運動における2台のデジタルスチルカメラを用いた簡易上肢動作解析システムの妥当性の検討今　法子 , 藤本　修平 , 山口　智史 , 近藤　国嗣 , 里宇　明元 35巻2号 , 2016年4月 , pp.159-166

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要旨：2台のデジタルスチルカメラを用いた簡易上肢動作解析システムの妥当性を検討した．健常者8名を対象に，簡易上肢動作解析システムと三次元動作解析装置を用い，リーチ動作時の肩・肘・股関節の角度とリーチ距離を動画にて撮影した．動画から，動作開始時，開始から1秒後，最大リーチ時の静止画を取り出し，関節角度とリーチ距離の相関係数と測定値の差を求めた．簡易上肢動作解析システムと三次元動作解析装置の相関係数は，肩関節で0.90〜0.99，肘関節で0.97〜0.99，股関節で0.85〜0.99，リーチ距離で0.96であった．関節角度，リーチ距離の平均誤差は，約3.5°，約1.0cmであった．簡易上肢動作解析システムは，妥当性を有し臨床で有用な可能性がある．

偏食がある子どもの保護者の自己効力感尺度（SAPS：Self-efficacy Assessment for Parents of children with Selective eating）の妥当性・信頼性の検討宮嶋　愛弓 , 立山　清美 , 平尾　和久 , 中岡　和代 , 日垣　一男 35巻2号 , 2016年4月 , pp.167-179

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要旨：自閉スペクトラム症等の発達障害児に，幼児期の偏食は非常に多い．食事に偏りがある子どもの保護者の8割以上が対応に困り，自己効力感が低下しやすい．筆者らは12項目で構成される「偏食がある子どもの保護者の自己効力感尺度（以下，SAPS）」を作成し妥当性と信頼性を検討した．因子分析の結果3因子が抽出され，【食事における基本的態度】，【好き嫌いの要因】，【偏食への対応】と命名された．3因子の累積寄与率は64.2％，Cronbach α係数は0.64〜0.86，再検査法での級内相関係数は11/12項目で0.68以上と，妥当性および信頼性が確認された．SAPSは短時間で実施でき保護者の自己効力感を評価できると考える．

血液がん患者に対する作業療法に関する後方視的検討池知　良昭 , 小野　恭裕 , 本田　透 , 三木　恵美 35巻2号 , 2016年4月 , pp.180-190

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要旨：当院にて作業療法（以下，OT）を実施した血液がん患者47名の臨床的特徴と，実施したOT内容を明らかにすることを目的として，診療記録に基づき後方視的調査を行った．結果より，当院では高齢で活動性とADL能力が低下した患者に身体・認知機能および心理状態の低下を予防するとともに，自宅退院を視野に入れたADLの支援を行うことが作業療法士に求められていた．無菌室でOTを実施した患者は，一般病棟の患者と比較してOT開始時の活動性とADL能力が高かった．実施されたプログラムは，患者の全身状態に加え潜在的身体能力が影響している可能性が示された．今後は活動性が低下する前の段階から作業療法士が介入する意義があると考える．

◆実践報告

母指変形性CM関節症に対する短母指対立装具療法における効果判定の試み齋藤　依里子 , 中村　優 , 樫村　祥子 , 星　遥 , 高原　政利 , 丸山　真博 35巻2号 , 2016年4月 , pp.191-198

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要旨：母指変形性CM関節症に対し短母指対立装具を作成した42例47手（経過観察期間5ヵ月）を対象として，疼痛の変化，装具装着状況，生活障害に対して上肢機能評価（以下，Hand 20）・Patient-Rated Wrist Evaluation（以下，PRWE），手術移行例の疼痛変化・装具装着状況・生活障害を調査した．疼痛は6ヵ月で半数以上が軽減し，装着状況は半数以上が6ヵ月間装着していた．Hand20・PRWEはスコアが減少し，疼痛軽減とADL改善につながった．Eaton分類（以下，stage）別の疼痛変化では全stageで約7割以上の疼痛が軽減したものの，stage 3，4では悪化例もみられ，短母指対立装具はその効果に限界があるが病期に関わらず初期治療として有効であると考える．

学生の社会交流技能を改善する取り組み高木　雅之 , 坂東　美季 , 西村　玲子 , 永吉　美香 , 山西　葉子 35巻2号 , 2016年4月 , pp.199-206

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要旨：作業療法士養成校の学生と教員が，学生の社会交流に関連する課題の解決に向けて社会交流評価（以下，ESI）を用いて評価を行い，取り組みの効果を検証した．取り組み前，学生はグループワークでほとんど発言できず，ESIの測定値は0.6ロジットであり，適切な交流の目安となるカットオフ値1.0ロジットを下回った．週1回30分程度の面談を5週間行い，課題解決に向けた計画を立て実行した．学生の課題や環境を調整した結果，学生はグループワークに積極的に参加できるようになり，ESI測定値は1.1ロジットに向上した．ESIは学生の社会交流技能を高める計画を立案し，取り組みの成果を客観的に示すことに役立った．

橈骨遠位端関節内粉砕型骨折に対する方形回内筋温存掌側ロッキングプレート固定術後における早期リハビリテーションの有用性湯本　美優 , 金井　三紗 , 伊藤　聰一郎 35巻2号 , 2016年4月 , pp.207-211

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要旨：当院整形外科では橈骨遠位端粉砕骨折に対し掌側ロッキングプレート固定の侵入法を方形回内筋（以下，PQ）切離から温存へ変更した．PQ切離群は回外運動を術後2週間禁止したが，PQ温存群は術後翌日からすべての可動域訓練を開始した．術後1，2，3ヵ月で握力と手関節背屈／掌屈，前腕回内／回外自動運動角度の測定と，QuickDASH値，VAS値を算定した．術後2ヵ月でPQ温存群の回内角度が有意に大きく，VAS値は有意に小さくなった．QuickDASH値は術後1，2ヵ月でPQ温存群が有意に小さかった．PQを温存し術後早期から制限なく可動域訓練を行うことは関節痛の軽減や上肢ADL向上に好影響し，低下したPQの機能回復を促進することが示唆された．

◆短報

回復期リハビリテーション病棟におけるPost-Stroke Depressionと日常生活動作との関連性の検討渡瀬　智恵 , 木村　大介 , 山田　和政 35巻2号 , 2016年4月 , pp.212-216

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要旨：本研究の目的は，Post-Stroke Depression（PSD）と日常生活動作との関連を明らかにすることである．脳血管障害患者21名の精神的健康状態を日本語版WHO-5精神的健康状態表（WHO-5），ADL評価をFIM，知能評価を長谷川式簡易知能評価スケール（HDS-R），運動麻痺はBrunnstrom Recovery Stage（BRS）を用いて評価した．分析は，WHO-5の単純集計，FIM下位項目とWHO-5の偏相関係数（HDS-RとBRS上肢・下肢・手指を制御変数），相関が認められたFIM下位項目を独立変数，WHO-5を従属変数とした重回帰分析（Stepwise法）を行った．その結果，精神的健康状態の影響要因としてセルフケアが抽出された．