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はじめに
母子健康手帳の歩みと電子版母子健康手帳の必要性
母子健康手帳は、1942(昭和17)年の妊産婦手帳に始まる長い歴史を有する母子保健の基本的な政策手段であり、妊産婦や乳幼児をもつ保護者、保健医療従事者をはじめとする多くの国民に広く利用されてきた。紙の母子健康手帳は、妊娠中の経過や出産時の状態といった母に関する情報と、新生児期の経過や乳幼児健康診査の結果といった児に関する情報を1冊に取りまとめた利便性の高い媒体であり、市町村、医療機関、産後ケア施設など多くの場所で、母子と関係機関をつなぐ役割を果たしてきた。
一方、紙の母子健康手帳による運用には、以下のような制約がある。①掲載できる情報量や紙幅に物理的な限界があること、②転居や時間の経過によりサービス情報等が変化しても情報が更新できないこと、③母子健康手帳を所持している場所でしか記載情報が把握できないこと、④妊婦健診や乳幼児健診等の受診時に問診票と手帳に同様の内容を重複して記入する負担があること、⑤紛失や汚損のリスクがあることなどである。
日本では、出産のために里帰りをする妊産婦が全体の約半分を占めており、そのうち3分の1以上は居住自治体とは別の地域で出産している1)。こうした里帰り出産や転居に伴い、必要な情報が自治体間で引き継がれにくい、医療機関からの健診結果が郵送で届くまでフォローが遅れることがあるなど、紙中心の運用における課題が指摘されてきた。
これらの状況を踏まえ、保健医療領域におけるマイナ保険証・オンライン資格確認の普及や、住民・医療機関・自治体の間で迅速に情報を共有・活用するための情報連携基盤(Public Medical Hub:PMH)の整備が進む中で、母子健康手帳のデジタル化に向けた検討と環境整備が進められてきた。「デジタル行財政改革取りまとめ2024」(2024〔令和6〕年6月デジタル行財政改革会議決定)においては、電子版母子健康手帳を原則とすることを目指し、2024年度から課題と対応を整理し、2025(令和7)年度にガイドライン等を発出し、2026(令和8)年度以降の普及につなげる方針が示されている。
電子版母子健康手帳は、紙の母子健康手帳に代わるものとして、母子健康手帳に記録される情報をPMHに保管し、利用者向けアプリ、医療機関等向けアプリおよび自治体向けアプリを通じて、情報の入力・参照を可能とする仕組みである。単に「紙をデジタルに置き換える」ものではなく、情報連携基盤であるPMHを通じて関係機関をつなぎ、利用者にとっては母子保健情報にアクセスするためのポータルとなるものである。
本稿では、2026年3月に発出された「電子版母子健康手帳ガイドライン」2)(以下、ガイドライン)の概要、導入のスケジュール、並びにPMH連携による変化や現場負担の課題について概説する。

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