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はじめに
胃腺腫は胃上皮性腫瘍の中でも古くから内視鏡医および病理医の関心を集めてきた病変であり,特に胃癌発生との関連について長年議論されてきた.従来,胃腺腫は分化型胃癌の前駆病変として位置付けられ,大腸における腺腫—癌関連(adenoma-carcinoma sequence)と類似した発癌過程が想定されてきた1)2).しかし近年の内視鏡的観察および分子病理学的研究の進展により,胃腺腫の前癌病変としての位置付けに対しては再検討を要するとの見解が提示されている3)〜5).すなわち,胃癌の発癌経路は従来想定されていたよりも複雑であり,大腸癌における腺腫—癌関連がそのまま胃癌の主たる発癌経路として成立するとは限らない可能性が示唆されている6).
近年,胃癌の分子分類としてTCGA(the Cancer Genome Atlas)による胃癌分類が提唱され,胃癌はCIN(chromosomal instability)型,GS(genomically stable)型,MSI(microsatellite instability)型,EBV(Epstein-Barr virus)関連型,の4つの分子サブタイプに分類されることが明らかにされた7).しかしながら,これらの分類は主として進行胃癌の分子異常に基づいて提起されたものであり,早期胃癌,特に粘膜内腫瘍(腺腫や癌も含む)における分子病理学的所見との関連についてはいまだ不明な点が多い6)8).
2019年に刊行された「WHO分類(第5版)」では,胃粘膜内腫瘍は異型度に基づき低グレード異形成(low-grade dysplasia ; LGD)と高グレード異形成(high-grade dysplasia ; HGD)に分類される9).筆者は,前記分類を修正し,胃粘膜内腫瘍を①腺腫,②低グレード上皮内癌,③高グレード上皮内癌,④粘膜固有層間質浸潤癌に分類している6)10).しかしながら腺腫と低グレード上皮内癌の組織学的鑑別が困難である点を考慮して,前記に腺腫と低グレード上皮内癌を包含する低グレード上皮内腫瘍というカテゴリーを設けてきた(Table 1).
本稿では,胃粘膜内腫瘍における主要な分子異常を整理する.特に,腺腫と低グレード上皮内癌の組織学的診断が消化管専門の病理医間でさえ不一致がみられる現状を踏まえ,胃粘膜内腫瘍の組織像の概略と分子異常については“腺腫と低グレード上皮内癌で構成される低グレード上皮内腫瘍”における分子所見の特徴を中心に述べる.さらに,高グレード上皮内癌および粘膜固有層浸潤粘膜内癌との分子病理学的共通点と相違点についても概説する.最後に,これらの知見を踏まえて胃癌の新たな分子発生モデルについて考察し,胃腫瘍発生における低グレード上皮内腫瘍(腺腫を含む)の位置付けについて筆者の見解を述べる.

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