特集 村瀬嘉代子1935-2025
村瀬嘉代子の統合的アプローチをめぐって
森岡 正芳
1
1立命館大学大学院人間科学研究科
pp.82-88
発行日 2025年9月10日
Published Date 2025/9/10
DOI https://doi.org/10.69291/cp25080082
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I はじめに
村瀬嘉代子先生は心理専門職としての自らの像をどのように形作ってきたのだろうか。先生が統合的心理療法(アプローチ)をまとめていこうとされたのは,ちょうど筆者が奈良に勤務していた頃であった。1998年4月孝雄先生の没後,嘉代子先生はその足跡を辿ることを志され,孝雄先生が晩年に傾倒された内観についても,自ら取り組まれ,奈良にも何度かお越しになった。そのご縁もあり,特別講義をお願いしたり,学生たちといっしょにお話を伺ったりする機会があった。講義や質疑のやりとりをつぶさに見ていた学生の一人が,「うーん。腰が据わっている」と感想を私に漏らしたことは,よく覚えている。
統合的アプローチの着想そのものは,さかのぼること30年前になると書き留めておられ(Murase, 2015),かなり以前からの展望であったようだ。先生は2002年に博士論文『子どもと家族への統合的心理療法―その創案と臨床的展開』を奈良女子大学に提出された。それはすぐに著書として出版され,2003年にはその続編『統合的心理療法の考え方―心理療法の基礎となるもの』(村瀬,2003)をまとめられた。ほとんどが難治例と思われる事例に基づく実践研究で,比類なきものであり,結晶体として統合的心理療法の立場を提示された。この小論では,その特徴のいくつかを拾い上げ,ジェネラリストの横顔をスケッチしてみたい。

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