特集 村瀬嘉代子1935-2025
村瀬嘉代子先生は何を伝えたかったのか――「村瀬」心理療法再考
江口 重幸
1
1一般財団法人精神医学研究所附属 東京武蔵野病院
pp.190-197
発行日 2025年9月10日
Published Date 2025/9/10
DOI https://doi.org/10.69291/cp25080190
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I はじめに
村瀬嘉代子先生への追悼の気持ちから,その30冊あまりの著書や共著を年代順に並べ,再読を試みたい。どれも懐かしく,とくにその何冊かはご恵送いただいたもので,そこには便箋や一筆箋に丁寧に書かれたメッセージがはさみ込まれている。ページを開くとそれがこぼれ出てくるのである。
これまで何回か,村瀬先生(以下,敬称略)から頂戴した刺激については文章にしたことがある(江口,2006,2014)。それは何か情報として学びとるといったものではなく,文字通り謦咳に接することで,ゆっくりと身につくという種類のものなのであろう。だから,何か完成された技法や体系的なものを得ようとして村瀬心理療法に接近する者がいるとすれば,それは残念ながら御門違いというしかないということをかつて書いたことがある(江口,2014)。村瀬は,「統合的心理療法」と名づけた,心理療法の総論的,体系的な見取り図を呈示された(村瀬(2024)にはチャート式にまとめられているものもある)。それは公認心理師制度の成立と発展に向けて,最先頭で旗を掲げてこられた経緯から当然のことと言えるかもしれない。しかし,村瀬を知る者の多くが痛感し,臨床経験者でなくともその事例を読むと感じられると思うが,その本領は模倣できるものではないのだ。私があえて「村瀬」心理療法と呼ぶのは,この模倣不能に思われる独自性によるのである。

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