投稿論文 論説
認知行動療法のソクラテス式質問は対立を生むのか ソクラテス式質問における「答え」という視点からの考察
毛利 伊吹
1
1上智大学
キーワード:
質問紙法
,
意識性
,
うつ病
,
コミュニケーション
,
思考
,
ストレス障害-心的外傷後
,
医療従事者-患者関係
,
動機付け
,
認知行動療法
,
苦痛
Keyword:
Thinking
,
Cognitive Behavioral Therapy
,
Depressive Disorder
,
Psychological Distress
,
Communication
,
Awareness
,
Professional-Patient Relations
,
Motivation
,
Stress Disorders, Post-Traumatic
pp.664-673
発行日 2022年10月5日
Published Date 2022/10/5
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本論文では,認知行動療法の認知的介入におけるソクラテス式質問の使用に関して,代表的な4名の理論家の考え方や枠組みについて概観した。さらに,ソクラテス式質問の使用においてクライエントとセラピストの関係が損なわれる可能性があるという問題点を踏まえて,適切な用い方について考察を行った。ソクラテス式質問の主な考え方についてまとめた結果,クライエントとセラピストとの協働関係が重視されており,クライエントを特定の答えに導こうとするのではなく,クライエント自身の答えを探す目的で用いられる点が共通していた。また,各理論家の枠組みには,治療関係を損なわないための工夫がそれぞれに存在することが見出された。具体的には,認知の修正ではなくクライエントにとっての発見をめざすこと,ソクラテスの無知という視点にクライエントもセラピストも立つこと,介入の標的とする認知を誤りではなく理にかなったものと位置づけることである。また,適切な認知という想定された答えにクライエントを導く手段としてソクラテス式質問を使うなら,そこには対立の潜在し得ることが示唆された。そして,介入の標的とした認知における感情的意味の変化に向けて,ソクラテス式質問を用いて協働で作業を進めることが重要であり,もしそのような変化に至らなくても,標的とした認知の検討を丁寧に行うことが,その認知から距離をとるうえで有効な可能性があることを指摘した。

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