癌微小環境研究up-date
第8回 低酸素PETイメージングによって解明された乳癌の低酸素環境に対する生体応答
上田 重人
1
,
淺野 彩
2
1JR東京総合病院乳腺外科部長
2埼玉医科大学国際医療センター乳腺腫瘍科助教
pp.32-35
発行日 2022年3月10日
Published Date 2022/3/10
DOI https://doi.org/10.34449/J0096.07.01_0032-0035
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癌細胞は主に糖代謝でエネルギーを産生するが,常に酸素や栄養素が不足するため発症早期より血管新生を誘導し,血液を腫瘍組織内に取り込もうとする1)。しかし,新たに構築された腫瘍血管は脆弱であり,組織内の隅々まで酸素を効率的に運搬することができないため,腫瘍の微小環境は局所的に酸素化のよい領域と悪い領域(組織低酸素)が混在する。組織低酸素環境下に置かれた癌細胞や間質細胞の一部は死滅し,あるものは組織低酸素に順応するために悪性度を高めオートファジーや転移能を獲得し,組織低酸素に強い癌幹細胞は残存する。癌細胞にとって遠隔転移とは,現在の低酸素環境から逃れ,よりよい環境を求めて起こす生体反応の結果であるといえる2)。癌治療において,腫瘍低酸素は治療抵抗性や予後不良に寄与することが古くから知られているが,実地臨床ではがん患者の腫瘍の低酸素レベルを実測することは不可能であり,画像検査で腫瘍血管への造影効果や血流信号による腫瘍内部の血管像からそれを推測しているのが現状である。本題で紹介する細胞内低酸素イメージングは研究レベルであるが,半定量的かつ非侵襲的に癌細胞に対する低酸素応答の解明や予後予測に役立つものと考える。
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