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本号では2020年上半期に一流誌に掲載され,インパクトの大きかった論文を5名の消化器病医に選んでいただき,解説をお願いした。今回は消化器病と関連する2報のCOVID-19感染論文が選ばれていることが特徴である。順天堂大学消化器内科竹田先生はGastroenterology掲載の香港での59名のCOVID-19感染者の解析結果を紹介。15名(25%)に消化器症状を認め,9名の便中からウイルスRNAが検出された。4,243名を対象とした60論文のメタ解析では消化器症状の有症率は17.6%,便中ウイルスRNAが検出率は48.1%であり,そのうち70%は気道からウイルスRNAが消失後にも検出された。感染回復後であっても便中にウイルスが残存していることは,消化器日常診療上,重要な報告である。鳥取大学消化器内科斧山先生はGut掲載の消化器内視鏡検査に伴う患者および医療従事者の感染リスクを紹介。イタリアでの後方視的研究である。内視鏡検査を受けた患者の感染率は0.12%であったが,対象の背景因子は様々である。医療従事者の感染率は4.3%であったが,感染者の86%は感染制御が周知されていない状況下での感染であり,個人防護衣などを含む感染制御下での感染は0.6%程度となる。広島大学病院伊藤教授はH.pylori除菌治療後の患者に生じた胃がん患者数を10年以上の長期経過観察した論文を紹介(J Gastroenterol)。2,737名の除菌後患者から68例の胃がんが発生した(0.02%)。未分化型胃がんでは除菌時の萎縮の程度には関連しないことが注目される。この頻度からみて,除菌後患者のすべてを定期的な内視鏡検査を必要とするか否かは費用対効果などの要因の検討も必要である。除菌後発がんリスクを効果的に絞り込む分子マーカーの有用性の前向き検討(AMED研究)が進行中である。滋賀医科大学消化器内科大野先生は潰瘍性大腸炎粘膜にみられる遺伝子異常を解析した京都大学から報告されたNature論文を紹介。IL-17経路に関連する遺伝子異常に集中し,この異常は大腸がんでは観察されず,主にがん化への抵抗性を付与した結果と推測される。富山大学安藤講師は同種造血幹細胞移植後の腸内細菌叢と予後を検討したNEJM論文を紹介。予測されるように,移植後,腸内細菌叢の多様性が高い群の死亡リスクが低い。COVID-19感染禍の消化器診療など実臨床に重要な好論文が紹介されている。
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