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冬に流行する季節性インフルエンザによって,日本だけで年に数千人が死亡している。死因は,高齢者と小児の肺炎,多臓器不全や脳症である。ウイルスの急激な増殖に対する生体の過剰な自然免疫応答が,血管内血液凝固や血管壁の透過性亢進を引き起こす結果である。インフルエンザワクチンの役割は,感染個体におけるウイルスの初期増殖を抑え,発症と重症化を防ぐ免疫を誘導することである。日本における現行の季節性インフルエンザワクチンは,濃縮精製したウイルスをエーテルで分解したスプリットワクチンである。抗原提示のメカニズム,自然免疫系の関与ならびに免疫応答と副反応の区別が明らかではなかった1971年に,副反応(実は免疫応答)を起こさないことを主眼に,免疫力価を犠牲にして開発されたものである。海外でも,エーテルまたは界面活性剤によってウイルスを分解したスプリットワクチンがインフルエンザワクチンの主流である。スプリットワクチンは,不活化ウイルス全粒子ワクチンと比べて免疫力価が乏しいこと,インフルエンザウイルス感染の経験がない(naïveな)幼小児には初期免疫を誘導(プライミング)しないこと,ウイルス特異的CD8⁺メモリーT細胞の刺激がきわめて弱いこと1),さらに,IgE抗体を誘導してアナフィラキシーを引き起こす可能性があること2)が示されている。本稿では,現実的・実用的観点から,目指すべき季節性およびパンデミックインフルエンザワクチンならびに,SARS-CoV-2ほかの新興ウイルス感染症ワクチンの開発と実用化のための要点を述べたい。「KEY WORDS」パンデミックインフルエンザと季節性インフルエンザ,ウイルス全粒子ワクチンとスプリットワクチン,SARS-CoV-2ほかのパンデミックウイルスワクチンに求められる特質:免疫プライミング誘導能
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