特集 小児科医が知っておきたい産科の基礎知識
総論
後発妊産婦死亡の実態と自殺
竹田 省
1,2
TAKEDA Satoru
1,2
1恩賜財団母子愛育会愛育研究所
2順天堂大学産婦人科学講座名誉教授・客員教授
pp.737-742
発行日 2025年6月1日
Published Date 2025/6/1
DOI https://doi.org/10.24479/pm.0000002434
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はじめに
日本の人口動態統計における「妊産婦死亡」は,母子統計指標として周産期死亡,新生児死亡などと並んでもっとも重要なものの一つとして用いられてきた。妊産婦死亡は妊娠中の死亡と産褥6週(42日)未満の死亡であり,「後発妊産婦死亡」は産褥6週以降から1年未満までの死亡と定義されている。日本では後発妊産婦死亡は海外に比しきわめて少なく,毎年ほとんど報告がないか数件程度であり,妊産婦死亡のみが問題視されてきた1)。しかし欧米では,後発妊産婦死亡のほうが妊産婦死亡より多く,両者を含めた死亡対策が取られている。また,日本では直接産科的死亡(妊娠・出産中に妊娠・出産自体が原因で死亡した事例)が多く,間接産科的死亡(妊娠前から発症していた病気や障害が,妊娠・出産の影響で悪化して死亡した事例)が少なく,直接産科的死亡ばかりが注目されてきた1)。一方,欧米では悪性腫瘍や心血管疾患,神経疾患などの間接産科的死亡が大量出血や妊娠高血圧症候群などの直接産科的死亡より多く,日本と異なった実態が明らかになっている。日本の母子統計指標上のこの2つの大きな実態乖離は,いままで日本特異な現象として捉えられてきたが,近年,死亡診断(死体検案)書の記載に問題があることがわかってきている1)。

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