- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに:難聴の定義と自己診断の位置づけ
難聴とは,他者には聞こえている音や言葉が本人には十分に聞こえず,生活に支障をきたす状態を指す。この定義は,難聴が絶対的な数値のみで規定されるものではなく,他者との比較,あるいは社会的基準との対照の中で成立する概念であることを示している。例えば日本聴覚医学会は,聴覚閾値が25dBHLを超えるものを難聴と定義している1)。聴力レベルと呼ばれる単位「dBHL」は若年健聴者の平均閾値を0と設定しており,この閾値設定自体が特定の集団を基準とした相対値である。世界保健機関は難聴を数値(20dBHL)で定義すると同時に「健聴者と同程度に聞くことができない人(A person who is not able to hear as well as someone with normal hearing)」を難聴者と記載し,他者との比較により定義される難聴の特徴を表現している2)。すなわち,難聴とは社会の中で規定される機能的概念であり,このため難聴の認識は必然的に自己診断を含む。他者との比較や,これまでの自分との比較によって初めて「聞こえの低下」は自覚されるからである。臨床現場においても,患者が耳鼻咽喉科を受診する契機の多くは,自らの聞こえに対する違和感である。聞き返しが増えた,騒音環境での会話が難しい,電話の会話が聞き取りにくいといった主観的体験が,受診行動を促す。したがって難聴の実態理解には,客観的聴力検査だけでは捉え難い「聞こえに対する本人の体験」を無視できない。本稿では,こうした背景を踏まえ,医療機関受診前に行いうる自己検査の方法や,その経時変化を捉える手段を概説し,聴力評価のあり方について考察する。

© tokyo-igakusha.co.jp. All right reserved.

