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本誌に掲載された諸先輩方の多くの総説は,その分野の勉強の入口として卒後,琉球大学第一内科の研究室に入った頃から拝読して来たので,すでに本誌を知って30年近くになる。この大学院生時代は,前教授の齋藤厚先生の下で,医局の研究テーマであるレジオネラ症の診断や治療の研究も分担させていただいていた。 ところで,レジオネラ症の診断に強力なツールである尿中抗原検出検査は,当時は現在のように簡便なイムノクロマトグラフィー(IC)法のキットはいまだ開発されておらず,海外のRIA(Radio immunoassay)やELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)法による検討報告がはじまったところであった。その後,検出キットが上市されるようになったが,ドイツ製のELISAキットはLegionella pneumophila種全般を検出対象とするものの,米国製の場合は米国疾病予防管理センター(CDC)の免疫学的診断基準に準拠し,他血清群や菌種との免疫学的交差が少ないL. pneumophila血清群1(以下,Lp1と略す)のみを検出対象とするものが認可されるなど,開発国の考え方により検出対象血清型には差があった。現在,わが国で普及しているIC法による尿中抗原検出キットは米国製のLp1を検出対象とするものが中心である。そして現状では,わが国の感染症疫学センターへの報告でも,レジオネラ症の9割以上がこの簡便な尿中抗原検査によって診断されている。 本検査の普及で,わが国のレジオネラ症の届出報告数は1999年の56例から2016年には1,592例(第52週速報値)と30倍近くに増加した。つまり技術開発と診断法研究成果の恩恵で,これまでは原因病原体不明とされていた肺炎の原因がここまで判明するようになったわけである。しかし,これらの症例は,診断に至った検査手段から考えるとLp1が9割以上を占めることになる。ところが本検査が普及する以前に研究室で培養により検出していたLp1の比率は約半数であり,PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法で血清型と無関係に単にL. pneumophilaと診断された症例等を加えても,L. pneumophila種は全体で約7割にとどまっていた。その他は,非Lp1のL. pneumophilaやL. bozemanii,L. dumoffii,L. micdadei,L. longbeachae等が占めていたわけである。ということは,尿中抗原検査の検出対象から漏れているLegionella属菌種による肺炎は,いまだにかなりの症例が見落とされ続けているということになる。 最近普及しはじめたLAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法は血清群にかかわらずL. pneumophila種全体の遺伝子を気道検体から検出可能であるが,検体採取も含めてより簡便な尿中抗原検査ほど実施率は高くないと推測される。したがって,たとえ微生物検査法の技術革新が進んでも,肺炎診療の基本に則り,尿中抗原検査やLAMP法が陰性の場合も,可能な限り抗菌薬投与開始前に培養検査を提出して結果を得ることが,『確証をもって治療にも臨め』,『より現状に近い疫学データの蓄積にもつながる』という点を,新たな診断の穴を開けないために,もう一度強調する必要があると感じている。