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2013年4月,大阪市立大学医学部附属病院で感染制御部の開設を経験した。当初より耐性菌のアウトブレイクに直面したが,手指消毒の習慣や抗菌薬の使用状況,院内環境の状況から,当院には感染対策の文化が未熟であることを実感した。私は院内に「感染制御の文化を創る」という目標を掲げ,当教室のホームページのバナーにも大きく,「文化を創る」と謳ってみたが,文化の創造は一朝一夕には困難である。すべてのスタッフが感染対策の重要性を理解し,日常行動の中に感染制御の基本が身につき,実践できることを目指して活動を行っている。 院内感染対策の三本柱は,「徹底した感染制御」,「適正な抗菌薬使用(Antimicrobial stewardship)」,「院内の環境整備」である。「徹底した感染制御」には標準予防策を基本として,病原体別の接触・飛沫・空気感染対策の遵守が求められる。また,近年推進されている「適正な抗菌薬使用」の活動は,抗菌薬の不適切使用による耐性菌増加を防ぐだけではなく,適切な投与量や投与期間などを推奨して,患者の最善のアウトカムにつながる薬物療法の提供でなければならない。さらに,「院内の環境整備」は環境を介した患者への微生物の伝播防止だけではなく,職員の作業環境管理の側面からも清潔な病院環境が期待される。 感染制御部開設から3年,苦い経験とインフェクションコントロールチーム(ICT)の前向きな取り組みにより,院内では感染制御の文化創造への着実な第一歩が感じられる。今後は院内から地域へ,すなわち地域連携強化が求められている。感染制御に関する地域での勉強会には,地域連携加算1施設および加算2施設のみならず,加算未修得の施設からも多くのスタッフが参加し,感染症の情報を共有した。今後は,行政を中心として,感染管理認定看護師(ICN)やスタッフとともに地域の感染対策のレベルアップを目指したい。 現代は48時間もあれば世界中どこにでも飛んでいける時代となった。アフリカのエボラ熱や,中東や韓国での中東呼吸症候群(MERS),南米を中心としたジカ熱など,新興・再興感染症の脅威を身近に感じる。2015年の69年ぶりのデング熱の国内発生は,それらの感染症が対岸の火事ではないことを我々に実感させた。 2016年4月,本学に「感染症科学研究センター」が発足する。西日本の最大都市である大阪は,結核等の人口過密に起因する感染症や,輸入感染症等の海外との交通に付随した大都市固有の感染症の脅威に曝されている。本研究センターは,西日本の拠点となるべく,診療科や各教室の垣根を超えて,地域や地球規模課題に取り組み,都市における感染症対策のモデルとなることを目標として,新たな第一歩を歩み始める。