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はじめに
「睡眠と麻酔は同じか?」という問いに対しては,「もちろん違う」と答えざるを得ない。睡眠は生理的な身体の現象であり,本来は薬物を必要としない。概日リズムや睡眠の恒常性(覚醒している時間に比例して眠気が増大し眠りに落ちやすいこと)によってコントロールされており,他者が強制的に睡眠を生じさせることはできない。一方,麻酔は麻酔薬や鎮静薬の作用によってもたらされる人為的な現象であり,生理的な睡眠とは根本的に異なる。睡眠と麻酔の違いは広く認識されており,多くの専門家がこの点に同意している。しかし,睡眠と麻酔にはいくつかの共通点が存在することも事実である。本論文では,睡眠医学の観点から,これらの共通点について詳述し,「麻酔と睡眠の境界領域」に焦点を当てて論じたいと考える。このようなアプローチにより,睡眠医学が他の領域と交わりながら発展してきた経緯を踏まえ,新たな視点からの理解を深めることが可能となるであろう。
まず,睡眠と麻酔の基本的な違いについて再確認する。睡眠は,自然に生じる生理的なプロセスであり,主に脳内の化学物質と神経活動によって調節されている。これに対して,麻酔は外部から投与される薬物によって引き起こされる人為的な現象であり,神経活動を抑制し,意識を喪失させることで,手術などの医療行為を可能にする。共通点について論じるにあたり,いくつかの観点が重要である。まず,睡眠と麻酔の両方が脳の特定の領域に影響を与え,意識の変容を引き起こす点である。例えば,両者ともに脳の活動を抑制し,意識レベルを低下させる。このため,脳波パターンや脳機能の変化において,類似した現象が観察される。
さて,医学を学んだ人間にとって麻酔と睡眠は上記のような「生理的か? 人為的か?」という理由で医学部の授業などでは,一緒に議論することすらないと思う。ところが,非医療従事者にとってみれば,麻酔と睡眠は似ている。その根拠は麻酔を施行されている人や眠っている人を外部から見て観察すること,もう一つは自分が麻酔や睡眠を経験することに基づいている。この非医療従事者の視点というのはわれわれの固定概念を乗り越える示唆に富んでおり,この境界領域のことを語るうえで大切と考える。
Sleep and anesthesia are fundamentally different phenomena, as sleep is a physiological process regulated by circadian rhythms and homeostasis, while anesthesia is a state induced by sedative drugs to suppress consciousness prior to invasive medical procedures. Despite these differences, sleep and anesthesia share similarities, such as their effects on specific brain regions, the alteration of consciousness, and amnesia. This review explores the commonalities between sleep and anesthesia from the perspective of sleep medicine, focusing on the “borderland” between anesthesia and sleep. We also discuss methods such as drug-induced sleep endoscopy(DISE)and research on dreams and memory during anesthesia, highlighting both the similarities and differences between sleep and anesthesia. The integration of sleep medicine and anesthesiology could lead to the development of new treatments and theories. Collaborations among experts in both fields of study, bringing together diverse perspectives, is anticipated to contribute to the overall advances in medicine.
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