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はじめに
せん妄は急性に発症する意識障害(意識変容)を本態とし,失見当識などの認知機能障害や妄想幻覚,気分変動などのさまざまな精神症状を呈する病態である。
麻酔科との関わりが深い術後せん妄は手術を契機に起こる急性脳障害で,術後30日以内の発症と位置づけられる1)。手術患者の20-50%に認められるとされ,高齢者に多い。術後せん妄の合併は予後を左右するといわれているため,術後せん妄を合併することのない周術期管理は患者の人生に重要な意味をもつ。問題なのは,完全な予防法やこれといった治療法がないことである。
せん妄は患者の生活の質(QOL)を下げ,予後を悪くするということは多くの人に浸透しているが,そもそもどういう人が術後せん妄になるのかというと,国際的に評価の高いイギリスのNICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)の2010年のガイドラインでは認知症のある人,重症疾患,65歳以上,感染があること,視力・聴力低下が挙げられている。2006年のsystematic reviewでは非心臓手術の術後せん妄のリスクファクターとして年齢,認知機能低下,視力や聴力低下,術前の身体的自立,アルコール量,電解質異常が挙げられている2)。そして,古い研究のJAMA3)でもほとんど変わらないことが分かる。これらのリスクを看護師が術前のせん妄リスクファクターに患者が何個該当するかによって高リスク,低リスクと分けて介入しているのが現状である。ここ30年ほどで,患者をリスク分類するまでになったが,相変わらず画期的な治療法はないというのが現状である。
せん妄に伴う問題点は,基礎身体疾患への悪影響や新たな身体疾患の併発,在院日数の延長,医療費の増大,死亡率の増加4),認知症のリスクファクター5),転倒リスクの増加6)というように,罹患しないことが望ましい。
せん妄による経済的損失としては,せん妄発症群では非せん妄発症群に比較して入院中および退院1年までの医療費が上昇することがある7)。アメリカにおいて,せん妄予防プログラムを行うことで医療費を削減できたという報告がある8)。日本でもDELTA(DELirium Team Approach)プログラムが開発され,抗がん薬使用中の患者へのせん妄対策として開始された。内容としては看護師への教育と運用プログラムがあり,せん妄アセスメントシートを使用してせん妄の予防・治療を含めた対応プログラムの開発がなされ,一定の効果を示している9)。
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