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最初に概論を理解していただくために,「固定内斜視(strabismus fixus)」の典型的な臨床像を筆者の自験例で解説する。当該症例は74歳女性で,強度近視を有しており,術後に計測した眼軸長は右32.12mm,左31.57mmであった。右眼位は正面視で角膜頂点が見えないほど極端に内下方に落ち込んでいた。眼球運動検査において,外転時には正中位にわずかに足りない位置まで可動であったが,上転方向には全く可動しなかった(図1)。MRI冠状断では上直筋と外直筋が,それぞれ内方と下方に大きく偏位していた(図2A)。固定内斜視のこのような典型的病像は,筋円錐を構成する上直筋と外直筋の間の結合織から眼球後方部分が脱臼していることによるものであるという横山説1)が最も有力な理論として世界で認められている。固定内斜視眼の診断には,MRI像を用いた脱臼角が有用である。横山が同時に提唱した重要な指標である。脱臼角の詳細は後述するが,自験例においても脱臼角は185°で横山が示した正常値約100°よりも明確に大きかった(図2B)。治療法は上直筋と外直筋を眼球後方(輪部から15mmが横山の提唱する原法)において全幅縫合して結合する横山法2)が基本である(図3)。自験例でも横山法を施行することで,正面視での正位,外転および上転の正常域可動を得た。下転において可動域は制限されているものの,眼球運動はおおむね正常化しており,横山法が固定内斜視に対して非常に優れた外科的治療法であることがわかる(図4)。横山法の提唱以前は,大斜視角の内斜視に対しての内直筋大量後転および外直筋大量前転が一般的な治療であった。長く伸びた眼球が筋円錐に収まりきらずに筋円錐から脱臼し,筋円錐のスペースが眼球に対して相対的に狭すぎる状況にもかかわらず外直筋の大量短縮によって筋円錐の容量は小さくなる。このような強化手術の治療成績は悪く,そのため不治の病とされていた。ところが,2000年にスペインのバルセロナで開かれたヨーロッパ斜視学会における横山の報告により固定内斜視の治療は大きく前進し,現在に至るまで数多くの患者が軽快してきた。横山博士はこの世界的功績により1970年以来13人しか選ばれていないBielschowsky Lecture3)のLecturerに2014年に選出された。現時点ではアジア人唯一の栄誉である。
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