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ノカルジアは土壌に生息するグラム陽性・好気性の放線菌であり,ノカルジア症は主に高齢者,糖尿病患者,ステロイドや抗癌剤治療歴のある患者などへの日和見感染で起こる。今回,健康成人においてノカルジアが原因菌の網膜下膿瘍から眼内炎となり眼球摘出に至った1例を経験したので報告する。
症例は65歳女性。右眼の視力低下を主訴に近医眼科受診,右矯正視力0.6であった。1週間後,前医紹介受診時には右視力は10cm指数弁まで低下,右眼の硝子体混濁と眼底後極に境界明瞭な黄白色隆起性病変を2か所認めた。トキソプラズマ症が疑われspiramycin acetate 400mg/日とdexamethasone点眼を開始されたが改善なく当科紹介となった。全身検査で明らかな異常を認めず,前房水網羅的ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)陰性,診断目的に硝子体生検を施行したが,硝子体培養を含め原因特定に至る検査結果は得られなかった。真菌感染症もしくは細菌感染症を疑い,fosfluconazole 800mg/日,imipenem and cilastatin sodium 1g/日の点滴静注を開始したが,右視力は10cm手動弁まで低下。2回目の硝子体生検を施行し,網膜下滲出液の培養からNocardia arthritidisが検出され,ノカルジアによる網膜下膿瘍と診断した。抗菌薬の点滴・内服を継続するも既に光覚弁なく,感染コントロールも困難であった。他部位への感染源となる可能性について説明したところ患者の同意が得られたため眼球摘出に至った。
検索し得た範囲ではノカルジアによる網膜下膿瘍が健康成人に発症した症例は,本邦においては本症例が初めてであった。Compromised hostではなく健康成人であっても,片眼性の網膜下膿瘍を認めた場合にはノカルジア感染を鑑別疾患のひとつに挙げる必要がある。
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